「あなただけが落ち着いていて、私だけが緊張しているというの?」出雲絹代は彼を怒って睨みつけた。
「緊張してるよ、僕だって緊張してないわけじゃない」水野春智は彼女の手を取り、自分の胸に当てて温めながら言った。「うちの日幸は国際大会で金賞を取ったことがあるんだ。この大会なんて小さな舞台だよ。優勝を待つだけでいい」
出雲絹代は「あなたに何がわかるの?この大会は国内で最も専門的な大会よ。みんな省レベルや国家レベルのダンサーばかり。日幸は最年少なのよ」
「それこそ、うちの娘がすごいってことじゃないか。生まれながらのダンサーだよ」水野春智はにやにやと笑って、得意げな表情を浮かべた。
雨はまだしとしとと降り続け、来た時よりも強くなっていた。
水野日幸はテレビ局の玄関を入ると、ロビーで待機していたスタッフに案内されて、スタジオの楽屋へと連れて行かれた。