「あなただけが落ち着いていて、私だけが緊張しているというの?」出雲絹代は彼を怒って睨みつけた。
「緊張してるよ、僕だって緊張してないわけじゃない」水野春智は彼女の手を取り、自分の胸に当てて温めながら言った。「うちの日幸は国際大会で金賞を取ったことがあるんだ。この大会なんて小さな舞台だよ。優勝を待つだけでいい」
出雲絹代は「あなたに何がわかるの?この大会は国内で最も専門的な大会よ。みんな省レベルや国家レベルのダンサーばかり。日幸は最年少なのよ」
「それこそ、うちの娘がすごいってことじゃないか。生まれながらのダンサーだよ」水野春智はにやにやと笑って、得意げな表情を浮かべた。
雨はまだしとしとと降り続け、来た時よりも強くなっていた。
水野日幸はテレビ局の玄関を入ると、ロビーで待機していたスタッフに案内されて、スタジオの楽屋へと連れて行かれた。
楽屋では、スタッフやダンサーたちが最後のリハーサルの準備に追われ、忙しく、混乱していた。
決勝に進出したのは全部で36組のダンス。ソロダンスやグループダンスがあり、クラシックダンス、民族舞踊、コンテンポラリー、社交ダンスの5つのジャンルに分かれていた。
番組側には専属のメイクアップアーティストやコスチュームスタイリストチームがいたが、数人の国家級ダンサーを除いて、残りの出演者は全員一つの大きな楽屋に詰め込まれていた。
水野日幸は楽屋に着いて、バックステージの責任者に報告した後、そのまま楽屋で放置された。
冷ややかな目で、彼女の後から来た出演者たちにメイクアップアーティストやスタイリストが割り当てられるのを見ていたが、彼女の番は来なかった。
物事には順番というものがある。その順番が守られないということは、何か裏で動きがあるということだ。
彼女は情報を得ていた。曽我言助が決勝の特別審査員だということを。
怪我で棄権した曽我若菜は特別ゲストとして、決勝の最後に締めくくりの歌を披露することになっていた。
曽我言助と曽我若菜が来るなら、曽我家の他の人々も来るだろう。
彼女の出場については、曽我家が知りたければ必ず知ることができた。だから、ここで放置されている状況も理解できた。