第55章 もう探さなくていい

「お兄さん、早く帰らないと！」水野日幸はまだ話し足りない様子だったが、彼は体調が悪く、薄着だったので風邪を引かないように心配だった。

「ちょっと待って」長谷川深は少女が降りようとするのを見て、彼女の小さなかごを指差した。「君のプレゼント」

水野日幸は一瞬驚き、もう一度這い上がってみると、かごの中には満開のひまわりの束と、青紫色のかすみ草の鉢植えがあった。澄んだ瞳に喜びが溢れる。「ありがとう、お兄さん！」

長谷川深は少女が去っていくのを見つめ、顔色が一瞬で蒼白になり、ついに抑えきれずに咳き込んだ。苦しそうな咳は極力抑えられていた。

葛生は急いで男性に上着を掛けようとしたが、突き飛ばされた。

「消えろ！」長谷川深の目は冷酷で凍てついていた。激しい咳のせいで、体は制御できないほど微かに震えていた。「まだ服を着なくても死ぬような状態じゃない」

「ボス」葛生は焦りの表情を浮かべた。「浅井先生を呼んで診てもらいましょう！」

ボスは昨夜から熱を出し、咳が止まらなかった。

朝早く水野お嬢様を見送った後、午前中ずっと寝ていた。

昼になると壁際で彼女の帰りを待ち始め、今までずっと待っていた。

「部屋に戻れ」長谷川深はようやく咳を止め、背筋を伸ばした。細長い瞳には冷たい死の静けさだけが残っていた。

葛生は何も言えず、黙って車椅子を押した。

今となっては水野日幸に感謝すべきか恨むべきか分からなかった。ボスの病状は、また悪化しそうだった。

ちょうどリビングに着いた時。

「浅井を呼べ」長谷川深が突然声を出した。

葛生は喜色を浮かべた。「はい」

長谷川深は拳を唇に当て、また低く咳き込み、顔色は一層青ざめていった。

彼女は明日の朝もまた挨拶に来るはずだ。こんな役立たずの自分を見せるわけにはいかない。

浅井長佑が来た時、最初の言葉は葛生に向かって「ボスの家の少女は、今日私のことを何か言っていましたか？」だった。

葛生はライブ配信を見ていて、彼が最後にステージに上がって少女に花を渡したことを知っていた。冷笑して唇を歪めた。「覚悟しておけよ」

浅井長佑は信じられない様子で「あの少女とボスは、私が想像しているような関係なんですか？いや、まだ未成年でしょう！」

葛生は死人を見るような目で彼を見た。「死にたくなければ、さっさと中に入れ」