第81章 挑発的な笑み

「浅井さんが急用で行かなければならないと言って、私に席を譲ってくれたんです。主催者側にも既に話は通してあるので、安心してここに座っていてください」田中楠は察しがよく、彼女が聞く前に自ら説明した。

浅井さんはきっと、この中森茜先生が江川歌見先生の弟子だと知っていたからこそ、自分の席を譲ったのだろう。

水野日幸は、浅井長佑が一体何をしようとしているのか知りたかった。なぜ彼は、ごく普通の少女である自分にこんなに親切にするのだろうか?

前回のダンスコンテストでの舞台での花束は言うまでもない。

今回は直接VIP席を譲ってくれた。

「浅井先生によろしくお伝えください」水野日幸も断らず、目の端で一般席に座っている曽我若菜の方をちらりと見た。

距離は遠く、照明も暗かったが、曽我若菜の目の中に燃える憎しみと嫉妬の炎をはっきりと見ることができた。