第173章 長谷川家当主

この世界には、空気の読めない奴が多すぎる。當主の家の娘がドラマを撮影しているのに、図々しい奴らが便乗して一儲けしようとして、わざわざ彼女を呼び出すとは。

當主はそれを知って、激怒した。

このバカどもは、大人しく生きていれば良いものを。

柳原浪尾は少年の姿が目の前から消えるのを見て、まるで今まで見ていた人が幻だったかのように、背筋が凍る思いで立ち上がり、顔面蒼白になった。

なんてことだ、あの出雲七は一体何者なんだ!

彼女の後ろには藤田家だけでなく、長谷川家まで付いているとは!

さっきの少年の腕に見えたのは、間違いなく長谷川家の家紋だった。

長谷川家は、藤田家と肩を並べる千年の歴史を持つ隠れ家門だ。

二十年前、長谷川家は五条家に滅ぼされ、たった一人だけが逃げ延びたという。五条家の末っ子、五条彦辰は長谷川家の外孫だった。

五年前、五条家は一夜にして没落し、莫大な財産も行方不明となった。

同年、長谷川家が復興し、長谷川家當主は、名前も知られていないが、誰もが「大ボス」と呼ばねばならない存在となった。

帝都では、五条家の末っ子、五条彦辰が現在の長谷川家當主だという噂が流れている。

今や日本全土で最も恐れられているのが長谷川家だ。長谷川家當主は悪名高く、冷酷無情で手段を選ばず、血族さえも手にかける凶悪な人物とされている。

長谷川家は名門豪族のランキングには載っていないが、ランキングに名を連ねる全ての家門を瞬時に打ち倒せる力を持ち、藤田家と比べても引けを取らない、いやそれ以上だ。

高級車の中で。

様々な種類のミルクティーが、一つずつテーブルに並べられていた。

藤田清輝は彼女に尋ねた。「冷たいのと温かいの、どちらがいい?甘さは?」

「藤田さん、そこまでお気遣いいただかなくても。」水野日幸は心が温かくなると同時に切なくなり、少し申し訳なく感じた。

前回あんなにはっきり言ったのに、藤田スターがまだこんなに優しくしてくれるなんて、妹を十数年探し続けている人にあんな残酷な言葉を言った自分は少し行き過ぎたかもしれないと感じた。

「僕は好きだよ。」藤田清輝は前回の彼女の冷たい言葉にも関わらず、疎遠になるどころか、むしろ彼女をより心配しているようだった。笑顔で尋ねる。「結局どれにする?」