柳原浪尾は額に冷や汗を浮かべ、おずおずと説明した。「大変申し訳ございません。聞くべきではない話を聞いてしまい、欲に目が眩んでドラマを勝手に編集してしまいました。藤田さんには改心の機会を与えていただきたく存じます。」
もし出雲七が藤田家の人間で、コスモスエンタテインメントの後ろ盾が藤田家だと知っていたら、百倍の広告料を積まれても、千の命があっても、ストーリーに手を出したり勝手に編集したりなどしなかっただろう。
水野日幸は、先ほどまで自分に対して一歩も譲らず、険悪な表情を見せていた男が、一瞬にして塵のように卑屈になった様子を見て、目に嘲りの色を浮かべた。
人間というものは、弱い者には強く、強い者には弱いものなのだ!
柳原浪尾は事の顛末を説明したが、もちろん出雲七の脚本家をどのように罵ったかについては言及しなかった。
よく考えてみれば、実際この交渉では、優位に立っていたのはずっと出雲七の脚本家で、その場で気絶しそうになったのは自分の方だった。
藤田清輝は入室した時、ただ雰囲気がおかしいと感じただけで、水野日幸が何をしに来たのか具体的には知らなかったが、良からぬことだろうと察し、とりあえず彼女を呼んで味方につけようとした。
柳原浪尾の話を聞いて、やっと彼女が交渉に来たことを知った。
柳原浪尾の言葉は真実半分で、彼女を褒める言葉が多かったが、実際はそうではなかったことは想像できた。
少女が交渉に来たのは、そう簡単に上手くいったわけではないだろう。
他の女の子たちが十七歳の時、可愛い服や試験の成績、密かに想う少年のことで悩んでいる頃。
彼女はすでに一人前として、たった一人で何十年も社会で渡り合ってきた老狐と交渉し、見事な勝利を収めた。彼女に対する認識を新たにすると同時に、より一層心が痛んだ。
柳原浪尾は丁重に彼らをテレビ局の入り口まで見送り、車が遠ざかるのを見届けてから、やっと冷や汗を拭った。心臓が飛び出しそうだった。
これからは仕事をする時、絶対にしっかりと調べなければならない。さもないと、また今回のような状況に遭遇したら、命が幾つあっても足りないぞ!
幸い藤田家の人々は度量が大きく、兄妹とも責任を追及しないと言ってくれたので、やっと安心できた。
こちらで感謝の涙を流しながら車が消えるのを見送り、振り向いた途端、大きな驚きに襲われた。