第177章 犬の牙を剥く犬

水野日幸は彼を一瞥し、知的障害者を見るような目で、そのまま彼の横を通り過ぎ、軽快な足取りで出口へと走っていった。

曽我軒助が振り返ると、来た人を見て瞳孔が震え、信じられない様子で目を見開いた。

藤田清輝！

藤田スター！

どうしてこんなことが？

いつから彼は水野日幸のような生意気な女の子の兄になったんだ？

もしかして若菜の言っていたことが本当なのか？水野日幸のような生意気な女が、藤田清輝を誑かしたのか！

「お兄ちゃん、どうしてそんなに遅いの」水野日幸は不機嫌そうに言った。

「あっちのスイーツは作りたてで、材料も新鮮なものを届けてもらわないといけなかったから、少し時間がかかってしまったんだ。ごめんね」藤田清輝は愛情を込めて彼女のふわふわした頭を撫で、まだ口を尖らせている彼女を見て、眉間にしわを寄せた。「どうして怒ってるの？誰が僕のお姫様をいじめたの？」

水野日幸は悔しそうに彼の服を掴み、涙目になりながら曽我軒助たちを指差して告げ口した。「お兄ちゃん、この人たち私を追い出そうとしたの！」

その場にいた人々は、藤田清輝という映画スターを実際に見たことがなくても、彼の映画は見ていたため、彼に一瞥されただけで慌てふためき、ウズラのように震えて、何も言えなくなった。

特に林部長は、冷や汗を額いっぱいにかき、死にたい気持ちになりながら、急いで近寄り、恐る恐る謝罪した。「申し訳ございません藤田さん、私が無知でお嬢様に失礼なことをしてしまいました。申し訳ございません」

曽我軒助の顔は鍋底のように真っ黒になった。あの生意気な女め、一体どんな手を使って藤田清輝に妹として認めさせたんだ。心の中で激怒しながらも、藤田清輝を恐れて声を出すことができなかった。

林部長は賢明な人物で、この状況でどう選択すべきかわかっていた。卑屈な表情で自分の言い訳を始めた。「藤田さん、曽我さんがお嬢様の存在が目障りだとおっしゃったので、私が退出をお願いしたのです」

この件には、スケープゴートが必要だった。彼はそれになりたくなかった。すべて事実を話しただけだ。この曽我という男が追い出すように言わなければ、こんな過ちを犯して藤田さんの怒りを買うことはなかったはずだ。

曽我という男の怒りを買っても大したことはない。結局、容宴楼も手ごわい相手ではないのだから。