水野日幸は辻緒羽が一瞬で消えた後ろ姿を見つめ、大豆田秋白について行った。
大豆田秋白は彼女に尋ねた。「何の用事か聞かないの?」
水野日幸は道を歩きながら、至る所で学生たちが『笑江山』について議論しているのが聞こえた。
最も話題に上がっているのは『笑江山』の内容ではなく、脚本家の出雲七のことだった。
大豆田秋白は目を細め、意味深な笑みを浮かべながら彼女を見つめた。「出雲七という脚本家が夜中に港都市へ飛んで行って、柳原浪尾と激しく対立したって聞いたよ。その後、テレビ局が謝罪して、柳原浪尾が引責辞任することになったんだって。すごいと思わない?」
水野日幸は冷ややかな表情で、頷いて「うん」と答えた。
誰がこの件を広めたのか、まさかこの憎たらしい狐の大豆田秋白じゃないだろうな!
「この出雲七という脚本家は本当に女傑だね。まだ十七歳だって聞いたけど、すごいものだ」大豆田秋白は言い終わると、話題を変えた。「昨日、君は休んでたよね。クラスメイトが病気だって言ってたけど、もう良くなった?」
水野日幸は冷たい目で彼を見た。「朝ご飯食べ過ぎた?」
大豆田秋白は狐のような笑みを浮かべた。「食べ過ぎてないよ。まだ朝ご飯食べてないんだ。よかったら一緒に食べない?」
この小娘は毎回彼の認識を新たにする。スターライトテレビのような老舗の無法者に謝罪させ、柳原浪尾のような老獪な奴を自ら辞任させるなんて。
彼女の背後にある勢力は相当なものだ。一体誰なんだろう?
水野日幸も実は予想外だった。スターライトテレビがこれほど物分かりが良く、公式アカウントで謝罪し、局長が引責辞任するとは。
柳原浪尾という老狐は、そう簡単に地位を手放す人物ではない。局長という華やかな地位を、辞任すると言い出したのは少し変だ。
昨日の交渉の時も、状況判断と損得勘定が上手そうだった。善人ではないが、愚か者でもない。
藤田スターも特に厳しい言葉を投げかけたわけではないし、彼のために謝罪して辞任するほどの理由はない。
彼女に関して言えば、柳原浪尾が自分を恐れたなどと思い上がるつもりはない。あの状況では、柳原浪尾は『笑江山』のために一時的に妥協しただけで、きっと後で彼女に仕返しを考えているはずだ!
「長谷川家を知ってる?」大豆田秋白は突然尋ねた。