第201章 硫酸ではない

水野日幸のこの生意気な女め、彼女を脅すなんて、トイレに行くたびにびくびくさせられて。

硫酸をかけるって?

今から本物の硫酸の味を教えてやるわ。

黒田夜寒は誰かが入ってくるのを聞き、目の奥に深い色が宿り、表情の大げさな暴虐さは消え、冷たさだけが残り、まるで別人のようになった。

曽我若菜は椅子を持ってきて、その上に乗り、水野日幸に脅されてから常に持ち歩いていた予備の硫酸をバッグから取り出した。目には大きな復讐を果たす満足感が満ちていた。

彼女は初めてこんなことをするのに、相手が水野日幸だからこそ、少しの恐れもなく、むしろワクワクして嬉しかった。硫酸を注ごうとした瞬間。

その時。

トイレの入り口から突然人影が飛び込んできた。

曽我若菜が誰なのか確認する間もなく、手が震え、椅子がバンという音を立てて倒れた。

彼女は地面に強く打ち付けられ、目の前が真っ暗になり、激しい痛みで目を開けることができなかった。

混乱の中、腕がヒリヒリと痛み、反射的に硫酸が肌を腐食していると思った。

椅子を倒した人も、彼女と同じくらい具合が悪そうで、その人の苦痛に満ちた呻き声を聞いた。女性の声だった。

椅子を倒して水野日幸を救い、自分を傷つけた人への憎しみで満ちながら、視界が少しずつ戻ってきた時、やっと誰なのかわかった。目には嫌悪感が満ちていた。「安美?」

なんだ、寒兄を奪おうとする厚かましい、分不相応な安美という女か!

安美は鎖骨あたりを押さえ、歯を食いしばって痛みに耐えていたが、あまりにも痛くて我慢できず、呻き声を漏らした。

黒田夜寒は曽我若菜の声を聞き、安美の名前を呼ぶのを聞いて、目の奥の表情が微かに変化し、冷たさが増した。すぐに口角を上げ、自嘲的で不敵な笑みを浮かべながら、ドアを開けた。

水野日幸は外で、曽我若菜と黒田夜寒の二人の様子を見ようと待っていたが、中の様子がおかしいのを聞いて、駆け込んだ。一歩踏み入れると、黒田夜寒も出てきたところで、彼は婚約者の曽我若菜ではなく、安美を最初に見た。

倒れた椅子。

地面に倒れ、みすぼらしい姿で、苦痛の表情を浮かべる二人の女性。

そして彼女の足元にある、透明な液体が少し残った透明な瓶。