藤田清輝は午前中、個人的な予定があった。
水野日幸は授業中で、英語ディベート大会前の最後の特訓授業だった。
辻緒羽は来ていなかった。サボっていた。教室の中で彼女以外は全員特進クラスの生徒だった。
「若菜、今日日本映画祭に行くんでしょう?すっごく羨ましい。」
「私も行きたいわ。若菜、絶対に私の推しのサインを貰ってきてね、愛してる。」
「誰でも行けると思ってるの?私たちの若菜みたいな美貌と優秀な成績がないと無理よ。」
特進クラスの女子たちが、まるで星が月を取り巻くように曽我若菜を囲み、羨望の眼差しを向けていた。
「そんな大げさよ。私なんて赤絨毯を歩けるわけないし、ただお母さんのおかげで映画祭に参加できるだけよ。」曽我若菜は謙虚に説明した。
「それだけでも十分羨ましいわよ。普通の人が映画祭に参加できるなんてめったにないんだから。」