藤田清輝は午前中、個人的な予定があった。
水野日幸は授業中で、英語ディベート大会前の最後の特訓授業だった。
辻緒羽は来ていなかった。サボっていた。教室の中で彼女以外は全員特進クラスの生徒だった。
「若菜、今日日本映画祭に行くんでしょう?すっごく羨ましい。」
「私も行きたいわ。若菜、絶対に私の推しのサインを貰ってきてね、愛してる。」
「誰でも行けると思ってるの?私たちの若菜みたいな美貌と優秀な成績がないと無理よ。」
特進クラスの女子たちが、まるで星が月を取り巻くように曽我若菜を囲み、羨望の眼差しを向けていた。
「そんな大げさよ。私なんて赤絨毯を歩けるわけないし、ただお母さんのおかげで映画祭に参加できるだけよ。」曽我若菜は謙虚に説明した。
「それだけでも十分羨ましいわよ。普通の人が映画祭に参加できるなんてめったにないんだから。」
「そうよ、私たちの若菜は将来芸能界に入って大スターになるんだから、きっと母を超えて輝くわ。」
「『国民アイドル』が来年の3月から放送開始よ。私の若菜は絶対センターでデビューして、超人気者になるわ。私も自慢できるわね、私の親友が一番人気のアイドルだって。」
女友達は本当に彼女を羨ましがっていた。美しい容姿に、良い家柄、家族全員が芸能人で、彼女も自然と芸能界に入り、スターになって、順風満帆な人生を送るのだから。
「番組はまだ応募が始まったばかりよ。すごい人がたくさんいるから、センターなんて言えないわ。」曽我若菜は彼女たちの言葉に顔を赤らめ、恥ずかしそうにしながら、後ろに座る水野日幸に得意げな視線を投げかけた。
この憎たらしい女。
『国民アイドル』の応募はもうすぐ締め切りなのに、まだ応募していないなんて、さすがに分かっているようね。応募したところで恥をかくだけだってことを。
あの時、お父さんにオーディションに参加したいと言い出したけど、断られたわ。あんな子に資格なんてないもの。
水野日幸は問題を解きながら、『国民アイドル』という言葉を聞いて、冷笑を浮かべた。
この番組の最大のスポンサーは曽我逸希で、曽我家が曽我若菜をデビューさせるために企画したオーディション番組。センターポジションはすでに曽我若菜に決まっていた。
でも彼女はすでに曽我若菜と曽我家のために、とびっきりの「サプライズ」を用意していた。