工藤沙織はまだ上の階のレストランに行っていなかった。水野日幸が誰かを紹介したいと言っていたので、先に行くのは良くないと思い、一緒に行くのを待っていた。
「この初雪ホテルはね、オーナーが心を奪われた女性にちなんで名付けたんだよ」工藤沙織は水野日幸にゴシップを話した。「オーナーが好きな女性と初めて会った日に、ちょうど初雪が降っていたんだって。ロマンチックでしょう!」
水野日幸は頷いて、確かにロマンチックだと思い、笑いながら尋ねた。「じゃあ、そのオーナーは、憧れの女性と結ばれたの?」
工藤沙織は憧れの表情を浮かべながら首を振った。「それは分からないわ。でも素敵じゃない?彼が建てたホテルの2階、3階、24階は全て空けてあって、好きな女性のために自ら内装を手がけるんだって」
水野日幸は面白いと思いながら、少し感慨深げに言った。「ホテルこんなに大きいのに、もったいないわね。彼と好きな人が住むにはそんなに場所要らないでしょう」
工藤沙織は笑って言った。「まだ若いのよ。恋の味を知らないから。もし誰かの男がこんなことを私にしてくれたら、即結婚するわよ」
水野日幸:「でも、その人がブサイクだったら?」
工藤沙織は首を振りながら笑った。「男なんてね、見た目なんて皮一枚のことよ。恋をすれば分かるわ。運命の人に出会えば、背の高さも、体型も、容姿も、性格も、何も重要じゃなくなる。その人はその人なの」
水野日幸も口元を緩めて笑い、頷きながら小さく「うん」と答えた。
この言葉は確かにその通りだった。その人に出会った時、一目で分かる。この人だと。
工藤沙織は彼女の額を軽く叩いて、からかうように聞いた。「何を考えてるの?そんなにうっとりして。恋してるの?」
少女が笑うと、全身が輝いているようで、目は星のように輝いていた。まぶしすぎるほどだった。
普段の彼女は大人びていて落ち着いていて、少し距離を置いていて冷たかったのに、こんなに柔らかくて甘い表情を見せるのは初めてだった。
これこそ十七歳の少女らしい。花のような年頃なのだから、思う存分笑って、思いっきり恋をして、心ゆくまで喜びを感じればいい。
水野日幸は首を振った。「ないわ」
工藤沙織は更に聞いた。「じゃあ、好きな人はいるの?」