藤田清明は夕食を食べていなかった。ミラノから戻ってきた後、そのまま屋敷に来てしまい、田中叔父夫妻が休暇で帰宅していたことも知らなかった。今や腹ペコで前後がくっつきそうだった。
折悪しく、水野日幸の自己発熱式火鍋は香りが強く、とても美味しそうで、彼の腹がグーッと鳴り、唇を舐めながら食べたくなった。
意地悪な子め。彼は単に遠慮しただけなのに、彼女は本当に二度と誘わなくなってしまった。
藤田清明は我慢できなくなり、長い脚で平静を装いながらキッチンへ水を飲みに行った。コップ一杯の水を飲んだ後、さらに空腹感が増した。
意地悪な子の前には、ご飯の入った容器と、おかずの入った容器が置かれていた。上には湯気の立つ赤い油が食欲をそそり、匂いを嗅ぐだけでも美味しいことが分かる、間違いなく火鍋の香りだった。
水野日幸は美味しそうに食べていて、背後から聞こえる腹の鳴る音を聞いても、何も聞こえなかったふりをし、彼の熱っぽく怨念の籠った哀怨の眼差しにも気付かないふりをした。
味は本当に素晴らしかった。
特に一日中まずい機内食しか食べていなかった後では、この小さな火鍋は至高の美味となっていた。
藤田清明はもう一杯水を飲んで、ついに我慢できずに彼女に尋ねた。「何を食べているの?」
「自己発熱式火鍋よ」水野日幸は珍しく真面目に答えた。
藤田清明は興味深そうに近づいて、覗き込んだ。「これは何という珍しいものだ。初めて見たよ」
水野日幸は彼に詳しく説明した。「これは生石灰が水に触れると発熱する原理を利用して、食べ物を温める、シンプルで便利な即席食品よ。新商品で、まだ発売前なの」
藤田清明は彼女が真面目に中の食材がどのように加工されているか、調味料の原料がどれほど良いか、原理について説明するのを聞いていたが、一口も味見させてもらえず、よだれが出そうになっていた。
水野日幸は意図的に彼をからかっていた。さっき聞いたとき、自分で食べないと言ったのだから。彼を見て尋ねた。「坊ちゃま、他に何か質問はある?」
藤田清明は熱い眼差しで火鍋を見つめ、よだれを飲み込んで、咳払いをし、平静を装って「ない」と答えた。
水野日幸は彼の表情を見て、笑いを堪えるのに必死だった。