水野春歌は黙っていた。実際、彼女も心の中で日幸の言うことはもっともだと思っていた。
「分かった。渡辺鶯とも相談してみよう」水野春雄はもう少し考える必要があった。
彼らにとって、そう簡単に引っ越せるものではなかった。何十年も暮らした故郷なのだ。弟のように幼い頃から外で頑張り、家を離れることに慣れているわけではない。急に引っ越すとなると、やはり心残りが多かった。
水野春智と出雲絹代夫婦は二人を説得し続けたが、故郷を離れることがそう簡単ではないことも分かっていた。様々な雑事や心配事があるのだ。
水野楓も話に加わった。この小さな町では、人生は見通しがきいてしまう。父も叔父のように、実は冒険心があるのだ。野心のない男などいないし、現状に満足している者などいない。
より多くのお金を稼ぎ、家族により良い生活をさせることは、誰もが望むことだ。
藤田清明は傍らで春節晩会を見ていたが、上の空だった。明日の朝には出発しなければならないと思うと、少し辛く、名残惜しかった。
水野日幸は水野春歌を部屋に連れて行って話をした。
「だめよ、私のような目の見えない人があなたの会社と契約なんて、迷惑をかけるだけよ!」水野春歌は水野日幸の提案を聞いて、首を振った。
絶対にだめだ。彼女のような人が日幸の会社と契約すれば、きっと様々な噂を呼び、彼女に悪影響を及ぼすに違いない。
「お姉ちゃん、私はあなたを信じてる。あなたも私を信じてくれない?」水野日幸は真剣に彼女を見つめた。「あなたの声は神様からの最高の贈り物よ。歌が好きで、音楽が好きなのに、どうして歌手になれないの?アルバムを出せないの?自分に自信を持って」
「日幸、私は...」水野春歌の声は詰まり、苦しげで、何と言えばいいのか分からなかった。
失明する前は、そんな夢もあった。でも失明してからは、もう考えることすらできなくなった。
「お姉ちゃん、阿炳だって目が見えなかったのに、あんな大音楽家になれたでしょう。誰もが知ってるわ」水野日幸は彼女の手を握り、自信と力を与えた。「やる気さえあれば、できないことなんてないの。私がついているから」
「日幸」水野春歌の言葉が途切れ、涙が流れ落ちた。「あなたが私のためを思ってくれているのは分かるわ。でも私にできるかしら?」