第315章 人格が悪い

ケーキ屋には二人しかいなかった。客の水野春歌と、店番をしている女の子。その子は店主の娘で、高校生だった。

女の子はイヤホンをつけながら『笑江山』を見ていた。最新話を見終わると、また最初から見始め、すでに何度も見返していた。見終わった後、同情的な目で水野春歌を見上げた。

もう二時間も経っているのに、春歌姉のお見合い相手の男性はまだ来ていない。きっと来る気がないのだろう。

春歌姉も可哀想だ。目が見えないのに、しかも待ち合わせにドタキャンされるなんて。その男性はきっとろくな人間じゃない。来られないなら一言言えばいいのに、女の子を待たせっぱなしにするなんて、何様のつもり?

彼女は、その男性が春歌姉を馬鹿にしているんじゃないかとさえ思えた。

スマートフォンを置き、立ち上がって、水野春歌に帰ろうと声をかけようとした。外は雨が降っているし。

ちょうど立ち上がったその時、店のドアが開いた。

ドアから一人の少年が入ってきた。少年は美しい顔立ちで、まるで漫画から飛び出してきたような美少年だった。彼女の心臓は激しく鼓動し、慌てて姿勢を正して、緊張しながら興奮した様子で尋ねた。「あの...」

「シーッ!」大豆田秋白は彼女に向かって静かにするよう手振りをし、カウンターに近づきながら、優しい笑みを浮かべて小声で尋ねた。「彼女は何を飲むのが好きですか?」

ケーキ屋の女の子は彼の視線の先を追い、水野春歌のことを指していると気づいた。複雑な表情で彼を見つめ、態度を一変させて少し怒った様子で答えた。「分かりません」

なんて人なの!

この人が春歌姉のお見合い相手だったのか。

時間を守らない、人を尊重しない、春歌姉をこんなに長く待たせて、どんなにイケメンでも、人格に問題があるわ。

大豆田秋白は女の子が急に冷たい態度になったことに気づいたが、特に気にする様子もなく、優しい声で言った。「では温かい水をお願いします」

女の子は彼を睨みつけ、ウォーターサーバーを指差して言った。「下にコップがあるから、自分で注いでください」

ふん!

どんなにイケメンでも意味ないわ、人格が悪いんだもの。

春歌姉は目が見えないだけでも可哀想なのに、優しい人と出会えないなんて、もっと可哀想じゃない。