辻緒羽は彼女が何を聞きたいのかと思い、だるそうに横目で見て言った。「彼は君の携帯が繋がらなかったって」
水野日幸は携帯を持って少し静かな場所に行き、窓際に立って外の街の灯りを眺めながら「もしもし」
藤田清明「君がくれた資料は、長谷川深のものだ」
水野日幸は眉間にしわを寄せた「何か問題でも?」
藤田清明「資料に問題はないんだが、彼との付き合いは兄貴に禁止されてる。もし知られたら、俺は終わりだ」
水野日幸「次兄は彼を知ってるんじゃないの?」
藤田清明「知ってるからって何だよ。知ってても敵同士ってことはあるだろ?兄貴は昔、奴にひどい目に遭わされたんだ。とにかく、これは受けられない」
次兄と彼の関係は比較的穏やかだったが、数回会った程度だ。共通の話題があって会話は弾んだが、友達というわけではない。
水野日幸「交渉の余地はない?」
彼女はこの間ずっと、兄の足の病気のことを調べていた。彼も協力的で、最近浅井長佑が一連の詳しい検査をしたところだった。
彼女は検査結果とさまざまなサンプルを藤田清明に送り、より良い治療法がないか見てもらおうと思った。
彼女の方では鍼灸やマッサージによる治療、薬物療法を補助的に行えるが、彼の体調と足の状態が良くなってから調整を始めなければならない。
効果については、まだ確信が持てず、その時になってみないとわからない。彼の足の病気は放置された期間が長すぎて、治療効果は大幅に低下するだろう。
藤田清明「じゃあまず教えてくれ。君と彼はどういう関係なんだ?なぜ彼の足の治療を手伝おうとしてる?」
水野日幸「彼は私の命の恩人よ。もし難しいなら、資料を返してくれればいい」
藤田清明はしばらく黙った後、「見てあげることはできる。でも一つ条件がある」
水野日幸「言って」
藤田清明「夏休みに俺の助手として来てくれ」
水野日幸「いいわ」
藤田清明は彼女が長谷川深のためにこんなにあっさり承諾するとは思わず、少し違和感を覚えたが、承諾してくれただけでも嬉しかった。「約束は破らないでよ。兄貴に殺される覚悟で君を手伝うんだから」
水野日幸「破らないわ」
藤田清明「じゃあ命懸けで付き合わせてもらうよ」
水野日幸「ありがとう」
水野日幸が個室に戻ると、石田文乃にラブソングのデュエットに引っ張り出された。