第377章 ブレーキが壊れた

観衆のレースファンたちも唖然としていた。その人が突っ込んでいって、レーサーを車から投げ出し、車を奪って逃げていくのを目の当たりにした。

レーサーは怒りで顔を真っ青にして、罵声を浴びせた。

ファンたちは赤い車影を一瞬だけ目にした。その車の非人間的なスピードは、先ほどの4号車と比べても引けを取らないどころか、それ以上だった。再び熱狂的な歓声が上がった。

空は、完全に暗くなっていた。

両側の街灯が一列に明るく灯り始めた。

深いブルーのマクラーレンは既に山道に入っていた。坂道とカーブは極めて難しい。

水野日幸はブレーキが壊れた最初の瞬間に、気付いていた。

スポーツカーが二つ目のカーブを曲がる時、ブレーキが突然効かなくなった。彼女の技術が優れていなければ、直接山に衝突して、車も人も終わっていただろう。