第388章 彼女は推し変した

「ありがとうございます」曽我若菜は感謝の眼差しで彼女たちを見つめた。

曽我言助というこの役立たずは、新人一人すら打ち負かせないくせに、言い訳ばかり。城戸修が凄いのではなく、彼の主力曲の作詞作曲家が凄いのだと。

作詞作曲家の夕子が会社に来て、彼をプロデュースしたいと言ったのに、音楽ディレクターとマネージャーに断られ、音楽界の頂点に立つチャンスを逃したのだと。

この数日間、まるで狂ったように、あらゆる手段を使って夕子を探していた。しかし、この夕子は非常に謎めいていて、一切の情報が見つからない。まるで空から降ってきたかのようだった。

「頑張って、言助兄に伝えてね。私は永遠に彼の熱烈なファンよ。城戸修なんて、どこか涼しいところに行けばいいのよ。誰が彼なんて知らないわ」田中澪子は口では一つのことを言い、心では別のことを考えていた。

彼女はきっと一生、こっそりと夫を好きになり、応援するしかないのだろう。なんて悲惨なことだろう。

彼女の夫は今や言助兄のライバルなのだ。若菜やクラス委員、クラスメートに自分が寝返ったことを知られてはいけない。さもないと、友達を失うだけでなく、特進クラスでも居場所がなくなってしまう。

田中澪子は大人しくなった。

しかし石田文乃がいたのだ。彼女は事を荒立てたくて、田中澪子の言葉を聞いて笑ってしまい、立ち上がって鼻で笑った。「田中澪子、あなたたちの言助兄はもうこんなにひどい負け方をしているのに、そろそろ負けを認めたらどう？あなたたちの一人一万枚のアルバム、いつ私たちに届くの？」

ふん、彼女は曽我若菜に言わないのね。裏で城戸修のアルバムを買って、トレカまで集めていることを。

「石田文乃、アルバムが発売されてまだ十日よ。焦りすぎじゃない？私たちの言助兄は後から追い上げてくるわ。絶対にあなたたちを追い越すから、調子に乗らないで」田中澪子はそう言ったものの、ただの強がりだった。

実は彼女の心の中では、最初に城戸修の歌を聞いた日に、すでに寝返って千枚のデジタルアルバムを買い、彼のポスターに向かって「夫」と呼んだ時点で、すでに負けを認めていたのだ。

たった十日の間に、言助兄のアルバム売上は初日にピークを迎え、その後は下降の一途を辿っていた。