水野日幸は辻緒羽に薬を一瓶渡した。この薬の主な効果は神経系を覚醒させるもので、長谷川深のために用意したものだった。
この薬の材料は、すべて極めて貴重な漢方薬材で、純度は現在の製薬設備で精製できる最高のものだった。
清水年彦は神経毒素に攻撃されており、この薬は彼の神経毒素を解毒することはできず、ただ神経系の死亡速度を遅らせることしかできなかった。
水野日幸は誰かに頼み事をしたことがなかったが、清水年彦の治療のために、初めて人に頼んだ。彼女は時間に追われており、直近の航空便のチケットも買えなかったため、人に頼むしかなかった。
玄関で、車のクラクションが鳴った。
水野日幸はバッグを背負って走り出し、頼んでいた人が車の中で笑顔を見せているのを見て、すぐに駆け寄った。「お兄さん、チケットは?」
長谷川深は少女を見て言った。「手に入らなかった。」
水野日幸は小さな眉をきつく寄せ、信じられないという様子で呟いた。「どうしてですか?お兄さんがチケットを手に入れられないなんて。」
長谷川深は顔を皺寄せて焦っている少女の様子を見て言った。「ちょうど私もM国に出張があるんだ。よければ一緒に行かないか。」
水野日幸の表情は一瞬にして晴れやかになった。そして男性の肩から、いたずらっぽい毛むくじゃらの小さな頭が覗いているのが見えた。それは飴で、彼女に向かってニャーンと鳴いた。「この子も行くの?」
飴は不満そうに彼女に向かってニャーンと鳴いた。なぜ行けないというのか?
長谷川深は、嬉しそうに車に乗り込み、隣に座る少女を見つめた。少女から漂う甘い香りが鼻先に広がり、心が安らかで温かくなっていった。
水野日幸は飴と遊びながら、そっと隣の男性を見て、内心喜んでいた。
これは彼らの三人家族での初めての外出で、彼女はまだお兄さんと家の外でデートしたことがなかったのだ!
運転席の葛生は、後ろで和やかな雰囲気の三人家族を見ながら、車を発進させた。確かにボスはM国に行くことになっているが、それは来週の予定だった。
ふふん!
ボスも嘘をつくようになったんだな!
水野日幸が長谷川深のプライベートジェットに乗り込んだとき、まるで雲の上を歩いているかのように幸せで、ヒバリのように嬉しそうだった。バーカウンターの上で威張っている飴の写真を撮った。