浅井製薬の中核実験室にて。
水野日幸はまだ忙しく作業を続けていた。広大な実験室の中で、彼女一人だけがいた。
辻緒羽は清水年彦のために奔走していたが、当然おろそかにはできず、実験室に入って水野日幸の邪魔をするのを恐れ、ずっと実験室の外で座っていた。
そうして一日中座り続け、外の空が暗くなってきたのを見て、タバコを取り出そうとしたが、空っぽだった。
隣の灰皿には吸い殻が小山のように積み重なり、椅子の上には空の煙草の箱が何個もあった。それを見て自分でも少し呆然とし、立ち上がって片付けてからガムを噛んだ。
戻ってきた時、実験室のドアの前に立ち、中で忙しく動く人影を見つめ、目には感謝の念が溢れていた。
自分はずっと運が悪かったと思っていたが、まさかこんな良いことに巡り会えるとは。彼女に出会えたことは、この人生で最も幸運なことだった。