第424章 全てを捨てて

水野日幸は隣に座っている男を見つめていた。どんな時でも、どんなに惨めな状況でも、彼の生まれながらの気品は隠しようがなかった。

彼女は話すことも、尋ねることも、泣くことさえもできなかった。先ほど彼が死のうとしていたのかを聞きたかった。

しかし、考えることも、思い出すことも怖かった。あの瞬間、全てを投げ出そうとした彼の絶望的で孤独な姿が、彼女の心を深く刺していた。

長谷川深が最初に沈黙を破り、隣の少女を見つめながら、低く掠れた声で言った。「こっちに来て」

水野日幸は彼に少し近づき、必死に冷静さを保とうとし、涙を堪えようとした時、頬に冷たい感触があった。男の指先が彼女の頬を拭っていた。

彼女は目を見開いたまま、静かに彼を見つめ、その瞳を凝視した。しかし、もはやそこには狂気も、残虐さも、血に飢えた様子も見当たらず、ただ穏やかさと優しさだけが残っていた。

しかし、そうであればあるほど、彼女の胸は苦しくなった。まるで心臓を誰かに握られ、無慈悲に引き裂かれているかのようだった。

長谷川深は少女の輝く黒い瞳を見つめた。その中には砕け散った星の光が満ちていたが、先ほどの出来事をどう説明すればいいのか分からなかった。

彼女はどれだけ見てしまったのだろうか?

彼女は何を知ってしまったのだろうか?

知りたかったが、彼女に尋ねる勇気が出なかった。

彼女が最も望んでいたのは彼が生きることだった。しかし先ほど、彼は利己的に逃避を選び、全てを終わらせようとした。

水野日幸は何を言えばいいのか分からなかった。心の中で多くの言葉を温めていたが、最後には些細な質問しかできなかった。「お兄さん、私の力、すごく強かったでしょう?」

長谷川深は一瞬固まり、少女の目の中で砕け散った星の光が少しずつ集まり、透明な涙となって流れ落ちるのを見た。慌てて彼女の涙を拭いながら、優しく慰めた。「大丈夫だよ、ただの火事だった」

水野日幸は直接彼の胸に飛び込み、しっかりと抱きしめ、顔を彼の胸に埋めたまま、低く悲しげにすすり泣いた。

彼女には分かっていた。自分の努力が足りなかったのだと。彼の心に残るほど、彼の気がかりになるほど、彼にあの恐ろしい考えを捨てさせるほどの存在になれていなかったのだと。