第460章 その時は泣かないで

石田文乃は正々堂々と弁解した。「それは一目惚れよ。一目見て魅了されて、頭が反応できなかっただけ。彼女が美人なら、なぜマスクをつけているの?」

山本雅子は自分が言い訳では彼女に勝てないことを知っていた。終わりのない議論になるだけなので、もう争わずに伊藤未央の方を向いた。「行きたいなら、私が一緒に行くわ」

彼女たちの言葉が終わるか終わらないかのうちに、曽我若菜が謎めいた講師の出雲先生の方へ向かっていくのが見えた。

この謎めいた講師は出雲姓で、出雲穹という名前。なかなか格好いい名前だが、芸能界を見渡しても、この人物の名前を聞いたことがない。

講師の個人プロフィールによると、H国の練習生の指導者だというが、彼女はH国で3年間練習生をしていたのに、どれだけの指導者を知っているわけでもない。

もし本当にそのような日本人の指導者がいたなら、必ずその名前を知っているはずだ。H国の芸能界では、日本人は少ないのだから。

水野日幸はちょうど静かだと思っていたところに、誰かが近づいてきた。他でもない、曽我若菜だった。

「出雲先生、こんにちは」曽我若菜は優しい表情で挨拶した。

水野日幸は軽く頷いて「こんにちは」と返した。

曽我若菜は彼女の冷たい表情を見て、内心で冷笑しながらも、表面上は相変わらず優しく微笑んだ。「出雲先生は振付担当ですか、それとも音楽担当ですか?」

何様のつもりだろう。自分から挨拶に来たのは同情からで、カメラの前でアピールする魂胆もあるのだ。他の講師の周りは賑やかなのに、この謎めいた講師の周りには誰も寄り付かず、寂しそうで可哀想だった。

自分が挨拶に行って場を和ませれば、自分の思いやりと優しさをアピールできる。

「両方担当します」水野日幸は質問されたことにだけ答えた。

「出雲先生のダンスと音楽のレベルは、きっとすごく高いんでしょうね!」曽我若菜は話題を続け、彼女の冷たい表情に対して、むしろ一層優しく話しかけた。

彼女なんて大したことない謎めいた講師よ。兄から番組制作側の話を聞いたけど、この講師は投資側が押し込んできただけで、コスモスグループの監視役に過ぎない。

コスモスエンタテインメントは今回の番組の投資側として、今回のオーディションに5人を送り込んできた。石田文乃というダメ人間も、所属事務所はコスモスエンタテインメントだ。