夏目弥生の視線のせいなのか、その場にいた他の講師たちも、一斉に水野日幸の方を見つめた。
この謎めいた講師は、評価が始まってから今まで一言も発さず、多数決に従うだけの存在だった。
例えば、五人のうち三人が練習生Bを選べば彼女もBを選び、Aを選べば彼女もAを選び、意見を求められても「頑張り続けてください」の四文字しか言わなかった。
今の状況で、夏目弥生が突然彼女を指名したのは、彼らの中で見せかけだけの人物が混ざっているのに耐えられなくなり、恥をかかせようとしているのだろうか?
この謎めいた講師出雲穹について、彼らは皆分かっていた。投資側から送り込まれた飾りに過ぎず、一票否決権があるとは言っても、実際はそうではない。
彼女の一票否決権は相対的なもので、彼女以外の五人の講師の過半数が彼女の決定を否定すれば、一票否決権は無効となり、講師たちの総意が優先される。
結局のところ、彼女は監督役に過ぎず、大きな影響力はない。投資側が送り込んだ目であり、自社の練習生を見守り、番組制作側と講師たちを監視し、自社の練習生の映像と放送時間を確保するためだけの存在だ。
しかし彼らは皆芸能界で名を成した人物たちであり、このような内定や裏取引を最も軽蔑し、不快に感じている。他の実力のある人々にとって不公平だからだ。
しかし、どうすることもできない。芸能界ではこういったことは日常茶飯事で、投資家であり、スポンサーなのだから仕方がない!
コスモスエンタテインメントはこの番組の投資家で、目の前のこの一人を含めて六人の選手を送り込んできた。番組側は内定とは言っていないが、彼らは分かっている。内定がなければ、彼らがこの番組に投資して、自社の人間が一人もデビューできないのでは意味がない。
彼らは心の中でとっくに覚悟していた。コスモスエンタテインメントは必ず内定枠を持っているはずで、あとはいつ言い出すかを待つだけだった。
水野日幸は、これまでずっと透明人間のように扱われてきた人物だが、初めてこれほどの注目を集め、カメラが一斉に彼女に向けられた。
向かい側の伊藤未央は、頭を胸まで下げんばかりになっていた。夏目弥生にあんなふうに指摘され、もう混乱して対応の仕方が分からなくなっていた。