宿屋の中。
山口深喜は突然目を上げ、手に持っていたグラスを入り口に向かって投げつけた。矢のように、風のように、鋭い殺気を帯びて。
入り口で座り込んでいた小さな乞食は、グラスが胸に命中し、地面に倒れ込んだ。
周りに潜んでいた乞食たちは、仲間が打たれて生死不明になるのを見て、血気にはやり、一斉に山口深喜に襲いかかった。
乞食の群れの中で、最も小柄な影が特に目を引いた。打狗棒術は鋭く、目にも止まらぬ早さで、わずか数手で、その実力の程が窺えた。
この実力とは、物語の中の乞食たちの実力ではなく、俳優自身の身のこなしと実力のことだ。この小さな乞食は他でもない、水野日幸その人だった。
玄人が一手打てば、腕前は明らかだ。彼女の一挙手一投足は、自然で流麗な完璧さを保ち、一目で練達の者だと分かった。
副監督とアクション監督は驚いた。この娘は凄い!
時間が切迫していて、王丸監督が急かしていたため、アクション監督は彼女に一度だけ型を教え、あとは臨機応変に対応するよう伝えた。
しかし予想外にも、彼女は完璧に、流暢に演じ、かつ主演の風を奪うことなく、アクション監督のような専門家だけが気付くほど、戦いの中で余力を残し、意図的に完璧を避け、自分のペースをコントロールしていた。
このペース配分は、武術の基礎がある人なら可能だが、彼女のような自然な加減を保つのは極めて難しい。彼自身、そこまではできないと認めざるを得なかった。
副監督の目が輝いた。なんという逸材だろう。メイクの技術が優れているだけでなく、アクションも流暢で、二度見て一度練習しただけでこれほど完璧な武術の動きができる。天才と呼ばずして何と呼ぼう。
さらにこの娘の演技も素晴らしい。動きに合わせた表情の変化は極めて繊細で、王丸監督が天賦の才能を持つ俳優と称賛する一橋渓吾でさえ、これほどの完璧さは見せられない。
まるで彼女は生まれながらにしてそうあるべきもので、役に入れば、その人物そのものになるかのように、役を生き生きと演じ、まさにその役柄の本人となる。
思わず王丸監督の方を見ると、監督の表情は彼以上に驚きに満ちていた。まるで宝物を見つけたかのように、目を輝かせ、彼女の一挙手一投足を見つめ、最も贔屓にしている主演の一橋渓吾さえ、この時ばかりは目に入らないようだった。