第546章 探すのはやめよう、彼女に決めた

一橋渓吾と水野日幸は足を止めた。

王丸碧は笑みを浮かべながら水野日幸を見つめた。「この方、演技がとてもお上手ですね。女優さんですか?」

彼は彼女を見たことがなかった。もし芸能界にこのような天才女優がいたら、絶対に気づかないはずがないし、今まで埋もれたままのはずがない。

となると、ただ一つの理由しかない。彼女は演技経験がないのだ。そうなると、この才能は恐ろしいほどだ。

一橋は生まれつき才能があったが、最初に演技を始めた時は指導が必要だった。彼女は一橋とは違う。まるで生まれながらにして演技ができるかのようで、指導も必要としない。

水野日幸は首を振った。「違います」

王丸碧はようやく望んでいた話題に触れることができ、興奮を抑えながら言った。「では、演技の世界に興味を持ってみませんか?」

水野日幸は容赦なく断った。「興味ありません」

「芸能界はとても稼げますよ。考えてみてください」王丸碧は困ったような表情を浮かべた。芸能界がどれほど稼げるかは言うまでもない。誰もが知っている。俳優のギャラがどれほど高いか、芸能界に関わる人なら誰でも大体の見当がつく。言うまでもないことだ。

芸能界というところは、知名度さえあれば、お金が紙のように財布に流れ込んでくる。どれだけの人が芸能界に入ることを夢見ているか。撮影所でエキストラとして夢と野望を抱いている人々を見れば、その一端が窺える。

水野日幸は微笑んだ。「お金に困ってません」

王丸碧は即座に言葉に詰まった。この言葉には返す言葉がなかった。何を言えばいいのか。説得を続けるしかない。「あなたの演技力を芸能界で活かさないのは、才能の無駄遣いです。本当に、あなたの演技はすばらしい」

水野日幸は「本当に興味がないんです」と言った。

彼女が断固として拒否し続ける一方で、スタッフやエキストラたちは驚きの表情を浮かべていた。特にエキストラたちは、誰もが芸能界に入って大金を稼ぎ、名声と富を手に入れることを望んでいるのに。

誰もが自分は演技の天才で、ただ才能を見出されていないだけだと空想し、いつか伯楽が現れて、自分の驚くべき演技力を一目で見抜き、スターにしてくれると夢見ていた。

しかし、そのチャンスは万人に与えられるものではない。万に一つもない。以前の芸能界ならまだ夢を見ることができたが、今の芸能界は本当に厳しい。