「その後、父が交通事故で亡くなり、祖父はようやく私と母を引き取り、私と母の身分を認めてくれました。でも父の死は母にとって大きな打撃で、精神的に問題が出始めたんです」大豆田秋白はここで一旦言葉を切り、苦笑いを浮かべた。「後になって分かったんですが、父の死はきっかけに過ぎなかったんです。母はずっと鬱病を患っていて、抗鬱薬を服用し続けていたんです」
水野日幸は彼の話を聞きながら、まるで古い恋愛小説のような陳腐な展開なのに、心が重くなるのを感じていた。
これは物語ではなく、彼の母の実体験だった。現実だからこそ、より重みがあった。
「母の症状が悪化してから、叔父たちは共謀して私たちを追い出したんです。もちろん、彼らは追放したわけではなく、母が発作を起こして人を傷つけることを心配したと言っていましたが」大豆田秋白は自分がなぜ彼女にこんな話をするのか分からなかった。多くのことを心の中に長く抑え込みすぎて、息もできないほど、崩壊寸前まで重くのしかかっていた。
おそらく、彼女に話しても絶対に他人には話さないと確信していたからだろう。
あるいは、彼の心の中で彼女を信頼できる人だと思っていたからかもしれない。
水野日幸は相変わらず静かに耳を傾け、聞き手としての役目を果たしていた。
「発作が起きてからは、あらゆる病院を回って入院もしましたが、症状は良くなるどころか、むしろ悪化の一途をたどっています。年末年始の頃は調子の良い時と悪い時がありましたが、最近では私のことさえ分からなくなってきました」大豆田秋白の声は穏やかだったが、目には涙が滲んでいた。
彼は怖かった。
とても怖かった。
大豆田家に追い出されて二人で暮らすことになった時も、怖くはなかった。
一人で母の面倒を見て、病院を転々としながら治療を受けさせた時も、怖くはなかった。
何も怖くなかった。母が病気であることも、人を傷つける可能性があることも、母の世話をすることも怖くなかった。でも、母が自分のことを永遠に認識できなくなることだけは怖かった。
水野日幸:「今の精神状態について、詳しく説明していただけますか?」
大豆田秋白はついに崩壊の兆しを見せ、首を振りながら絶望的な声で言った。「私は医者じゃないから判断できません。ただ、とても悪い状態です。今までにないほど悪い状態なんです」