彼は人生で嫌いな人などいなかったが、目の前のこの人物は、彼の認識の限界を更新し、世の中にこんなにも憎たらしい人間がいることを知らしめた。
「一橋渓吾、どけ!」大川真は怒りの声を上げ、水野日幸を憎々しげに睨みつけた。「この役は私の友達のものよ。すぐに来るから、その衣装を脱ぎなさい!」
彼女なんて何者だというの?どうして自分が監督に何度も頼み込んで、やっと手に入れた役を、彼女は簡単に手に入れられるの?
この役は、彼女が仲の良い女友達のために取ってきたもので、セリフも何行かあるのに。突然人が変わったら、どう説明すればいいの?面目が立たないじゃない。
「申し訳ありませんが、あなたの友達には帰ってもらいましょう」水野日幸は、どんな人間にはどんな対処法が効果的かを一番よく分かっていた。目の前のこの頭の悪い女には、真っ向から対抗するのが一番だ。