すぐに。
入り口にいた人たちは話しながら去っていった。時刻は午後6時、練習生たちの練習が始まる時間で、廊下は静まり返り、誰もいなくなった。
水野日幸は黒いパーカーを着て、フードを被り、誰もいないことを確認してから、素早く部屋を出て、エレベーターに乗り、階下へ降り、道路の向かい側に停まっている黒いマイバッハへと真っ直ぐに向かった。
曽我若菜と木村鷺の二人は、30分の休暇をもらい、女性用の日用品を買いに一緒に出かけた。タクシーを降りると、水野日幸がマイバッハに乗り込む姿が一瞬見えた。
木村鷺の瞳は急に細くなり、一目で水野日幸だと分かった。番組が正式に放送された初日に、エレベーターで水野日幸を見かけ、新しい練習生だと思っていたが、それ以来会っていなかった。
しかし今、なぜ彼女が練習生の研修ビルから出てきたのだろう?番組制作のため、この周辺は全て規制され、厳重に管理されており、出入り許可証がない人は入れないはずだ。
曽我若菜も確かに水野日幸だと確認し、心の中に奇妙な曖昧な感覚が走り、直感的に良くないと感じた。
そう。
水野日幸が現れる場所は、とても危険に感じる。また何か厄介なことを起こすのではないかと心配だった!
「鷺、番組側がこの数日にミステリーゲストが来ると言っていたけど、叔父さんは誰か言っていなかった?」曽我若菜は心配で仕方がなかった。
講師として、番組が招いたミステリーゲストが、まさか水野日幸というあの嫌な女じゃないでしょうね。彼女は私が良い目を見るのが我慢できないのよ。私がどこに行っても、付いてくるなんて、まるで祟りみたい。
「よく分からないけど、ダンサーみたいよ」木村鷺はこういうことには当然とても関心があり、聞いてすぐに叔父に問い合わせた。
叔父は副局長だが、番組は機密保持が必要で、詳しいことは話せないはずだった。彼女が必死に聞き出してやっと少し情報を漏らしてくれた。
「どのくらいの格の人か言わなかった?」曽我若菜は胸がドキッとして、やはり水野日幸なのかどうかもう少し確認したかった。
ダンサーと言えば、水野日幸もダンサーと言えるだろう。彼女自身は公に認めていないが、業界では既に松原白羽の弟子として認識されていた。