「日幸、アイドルとか好きなの?」立山蘭は積極的に水野日幸に話しかけた。
映画スター藤田清輝といえば、道端で適当に誰かを捕まえても、おそらく知っているだろう。たとえ知らなくても、その名前は必ず聞いたことがあるはず。映画史上最高の日本人名優だ。
「興味ないわ」水野日幸は丁寧に答えた。
立山蘭は彼女の冷たさや距離感を感じていないかのように、しつこく近づいて続けた。「私はファンよ。一番好きな歌手は城戸修で、一番好きな俳優は光輝兄なの」
水野日幸はそっけなくうなずいた。
立山蘭は空回りしたものの、まだ笑顔を浮かべ、気まずい空気を避けるため、一人で藤田清輝の話を始めた。心の中では水野日幸を百八十回も罵っていた。ただ家がちょっと金持ちで、才能があるだけじゃない?何をそんなに威張っているの、何が高慢なのよ。
見てなさい、一橋渓吾を手に入れたら、まずあなたを追い出してやるわ。
二人の寮は4階にあり、一方は左側、もう一方は右側だった。
水野日幸は足を止め、彼女に頷いて左側を指さした。「私はこっち」
立山蘭は彼女の態度に非常に不快を感じていたが、それでも彼女に取り入ろうと笑顔で近づいて尋ねた。「日幸、お兄さんの連絡先を教えてもらえない?いくつか質問したいことがあるの」
水野日幸は容赦なく断った。「無理」
言い終わると、すぐに立ち去った。
立山蘭は怒りで顔を真っ赤にし、歯ぎしりしながら彼女の冷たい背中を睨みつけ、目に暗い色が宿った。彼女を引き裂いてやりたいほどだった。あの子が何様のつもり?いつか必ず仕返ししてやる!
水野日幸は母親のことがなければ、立山蘭のような人とは一言も話したくなかった。意地悪で器が小さく、見栄っ張りな性格は、本当に吐き気がする。
寮に戻ると。
大方笑子が真っ先に彼女の方へ走ってきて、興奮した様子で言った。「日幸、聞いた?光輝兄が私たちの学校で撮影するんだって!」
江川薫は完全に喜びで狂ったように、スマートフォンを水野日幸に見せた。そこには写真が映っていた。「日幸、見て見て、光輝兄の写真が撮れたの。私すごいでしょ」
水野日幸はちらっと見て、苦笑せざるを得なかった。確かに撮れてはいたが、後頭部だけで、それより下は前の密集した人々に遮られていた。