第512章 あの夕子先生が悪いのよ

来た人は、他でもない、川村染と曽我時助だった。彼らは本来、曽我若菜を応援するために現場に来るはずだったが、飛行機が遅延し、現場に着く頃にはトレンド入りを見て、急いで駆けつけたのだった。

曽我若菜はスタッフが川村先生と呼ぶのを聞いて、拳を握りしめたが、心の中ではほっとした。大丈夫、お母さんがいる、きっと助けてくれる、自分の味方になってくれるはずだ。

曽我時助はスタッフを追い払った。

川村染は近寄り、複雑な表情でベッドに横たわる曽我若菜を見つめ、目が少し赤くなっていた。ベッドの端に座り、低く溜息をつきながら「若菜」と呼びかけた。

この子はどうしてこんなに不注意なことをして、弱みを握られてしまったのか。あの夕子先生は一体何者なのか、よくも現場で暴露するような大胆なことができたものだ。

彼女は若菜の身分を知らないのか?曽我家の怒りを買って、芸能界で生きていけなくなることを恐れないのか?

曽我若菜は気絶のふりをするのをやめた。川村染の同情を最大限に引き出す方法を知っていた。体を激しく震わせ、背を向けて、頭を胸に埋めて、すすり泣き始めた。

川村染は長い間黙っていたが、またため息をついて「馬鹿なことをしたわね!」と言った。

音楽業界では、カバーやアレンジは著作権さえあれば怖くない。盗作や剽窃も、バレなければ怖くない。バレても怖くないが、一番怖いのは初披露で見つかることだ。それもこんな重要なステージで。

若菜のこの曲が、一週間でも遅く発覚していれば、ここまで大ごとにはならなかった。今や世論をコントロールするのも難しく、彼女の人気に大きな影響を与えてしまった。

曽我若菜は黙って、ただ泣いていた。悲しみと絶望と無力さに涙を流した。

曽我時助は見かねて、憤慨した表情で「母さん、若菜はもう十分辛い思いをしているんだ。これ以上責めないでよ。結局のところ、全てはあのろくでもない夕子先生が悪いんだ」と言った。

人は誰でも間違いを犯す。若菜が犯したのは、誰もが犯すような小さな過ちに過ぎない。音楽業界のあのクソ野郎たちが、どれだけ清廉潔白だというんだ。海外の曲を盗用して剽窃し、オリジナルと称している奴らなんて山ほどいる。それでも皆イメージを回復している。