「ゴホッゴホッ」
隣に座っていた水野日幸が、突然咳き込み始めた。
上條千秋は声を聞いて慌てて振り向くと、彼女が顔を真っ赤にして激しく咳き込み始め、瞬く間に涙まで出てきた。慌てて水を差し出し、背中をさすった。
出雲絹代は彼女が喉を詰まらせているのを見て、駆け寄り、上條千秋と一緒に彼女を助けた。
水野日幸は大きなコップ一杯の水を飲み、長い間咳き込んだ後、やっと落ち着きを取り戻し、もう一度咳をしてから話し始めた。「大丈夫、ただ唐辛子で喉を詰まらせただけ」
出雲絹代と上條千秋はようやく安心し、お互いを見つめ合って微笑んだ。
二人が水野日幸一人の世話を焼いて慌ただしくしている様子に、他の人々も心配になり、全員の注目が彼らに集中した。ただ一橋渓吾だけは藤田清明を見て、何か不思議な感覚を覚えた。
日幸が喉を詰まらせただけなのに、なぜ藤田清明まで咳き込んで、顔を真っ赤にして喉を詰まらせているのだろう?
藤田清明も何が起きたのかわからなかったが、おそらく唐辛子が辛すぎて、一口食べた後に喉が詰まり、咳が出そうになった。しかし彼はうまく我慢して、あの悪戯っ子のように大げさにして皆の注目を集めることはなかった。大きなコップ一杯の水を飲んで、ようやく不快感を抑えることができた。
一橋渓吾は藤田清明を見た後、水野日幸を見た。石田文乃が藤田奥様に夕子先生のことを話した時、彼女の表情に変化があったことに気づいた。
彼は彼女が確実に夕子先生を知っていると察した。彼女が一言言えば、藤田奥様が夕子先生に会うのは簡単なはずだ。
しかし彼女の表情は非常に複雑で、とても奇妙だった。
食事が終わり、上條千秋は藤田清明と共に別れを告げた。
出雲絹代は彼らを呼び止めた。「藤田奥様、もしよろしければ、帝都に来られた際は私たちの家に泊まっていってください。私たちも地元の案内をさせていただきたいです」
日幸は去年ウィーンに行った時、藤田家に泊まっていたので、その恩は忘れていなかった。
「そうそう、日幸に案内させましょう。今は夏休みだから、時間もあるでしょう」水野春智は直接水野日幸を引き出した。
水野日幸:……
案内したくない、したくない!