上條千秋は「実の両親」という言葉に敏感で、思わず視線を逸らし、一橋渓吾を見つめた。
この少年は、とても端正な顔立ちで、気品があり、人に対しても礼儀正しく謙虚だった。彼女は彼のことを知らなかったし、息子からも聞いたことはなかったが、息子は彼のことを知っているようだった。
出雲絹代は今、どう説明すればいいのか分からなかった。
水野春智と水野日幸が口を開こうとしたが、一橋渓吾が誰よりも先に静かな声で事実を述べた。「私が水野知非です。叔父さんと叔母さんの実の息子です。」
出雲絹代は彼の口から直接その言葉を聞いて、すぐに涙が溢れてきた。ただ、この叔父さん叔母さんという呼び方を、お父さんお母さんに変えてくれたら、もっと嬉しいのに。
水野春智も満足していたが、その呼び方を聞いて心に寂しさを感じた。しかし、彼がこの事実を知ったばかりで、整理し受け入れる時間が必要なことも分かっていた。呼び方の件は、もう息子を見つけたのだから、急ぐ必要はない、今は急がなくていい。
水野日幸は嬉しそうに口元を緩ませた。一橋渓吾が口には出さなくても、心に引っかかりがあるのではと心配していたが、彼の言葉を聞いて、やっと安心できた。
きっと彼はまだ呼び方を変える準備ができていないだけで、心の中ではこの事実を受け入れているのだろう。あんなに思いやりがあって、優しい人だから、みんなを困らせるようなことはしないはずだ。
石田文乃は水野日幸の隣に座っていて、その言葉を聞いて密かに彼女の服を引っ張り、こっそり笑みを浮かべた。一橋渓吾の受け入れる能力は相当高いようだ。
でもそれは当然のことだった。叔父さん叔母さんはこんなに素晴らしい人たちで、日幸というこんなに素敵な妹もいるのだから、受け入れられないはずがない。
彼は幼い頃に人さらいに連れ去られたのであって、叔父さん叔母さんが見捨てたわけではない。叔父さん叔母さんはこれほど長い年月、彼を探すことを諦めなかった。
彼女だって叔父さん叔母さんに父母になってほしいと思うくらいだ。こんな父母を持てるなんて、前世で積んだ善行のおかげに違いない。
「おめでとうございます」藤田清明は心から彼に祝福の言葉を贈り、出雲絹代たちにも向かって言った。「叔母さん、叔父さん、本当におめでとうございます。これ以上ない良いことですね」