第557章 どうして日幸みたいなの

上條千秋が個室のドアを開けると、藤田清明がソファに座って傷の手当てをしているのが見えた。慌てて駆け寄り「どうしたの?私がちょっと出かけている間に、一体何があったの?」

「母さん、もういいよ。手が震えて、急須が足に落ちちゃっただけだから」藤田清明は痛みで息を吸い込みながら、自分の足の指を見つめた。運が悪かった。手が震えて、急須が滑り落ちてしまったのだ。

「見せなさい。熱いお茶?冷たいお茶?」上條千秋は彼の手を払いのけ、眉をひそめながら自ら包帯を巻き始めた。

「冷たいお茶だよ。この時間に誰が熱いお茶を飲むものか」藤田清明は冷たい空気を吸い込みながら大声で叫んだ。「母さん、優しくして!痛いよ。私はもう母さんの息子じゃないの?もし熱いお茶だったら、この足はもうダメになってたよ」

上條千秋はため息をつき、心配そうな表情で「あなたったら、不注意ね。まるで日幸みたい」

日幸のことを思い出した。さっき階段を上るとき、スマートフォンを見ながら歩いていて、もう少しで転びそうになっていた。

「水野日幸?」藤田清明は眉をひそめ、痛みを訴えるのを止めた。「彼女がどうかしたの?」

記憶が正しければ、母は彼女に一度しか会っていないはずなのに、なぜ彼女の話が出てくるのだろう?

「彼女さっき、もう少しで転びそうになったの」上條千秋はさっきの出来事を思い出し、まだ後怖さを感じていた。もし本当に転んで、階段から転げ落ちていたら、どうなっていたことか。

「彼女もここにいるの?」藤田清明は母を連れて気分転換に来ただけで、水野日幸には何も言っていなかった。「私たちに会いに来たの?彼女はどこ?」

「違うわ、家族で食事に来てるのよ」上條千秋は息子の興奮した様子を見て「後で挨拶に行く?両親も一緒よ」

「もちろん!」藤田清明は心の中で、あの意地悪な子が自分に会いに来たわけではないことを分かっていたが、そう想像するだけでも楽しかった。

「じゃあ、食事の後で行きましょうか」上條千秋は人の邪魔をしたくなかった。

「いや」藤田清明は首を振り、真剣な表情で母を見つめた。「母さん、早く包帯を巻いて。今すぐ行って一緒に食事しよう。人が多い方が賑やかだし」

上條千秋は「迷惑じゃないかしら」