源那津には誰の声かわからなかった。
水野日幸はすでに答えていた。「川村染だ」
まさかここまで来るとは。彼女はどの面下げてそんなことが言えるのか。源家を破滅に追い込んでおいて、天罰が下るのを恐れないのか。
源那津が振り向くと、彼女のいつもの無関心そうな瞳が、今は万里の氷のように凍りついていた。明らかに殺気を帯びており、外から聞こえてくる声に、顔を曇らせて言った。「出て行って確認してくる」
水野日幸は冷笑した。「相手にする必要なんてない」
外では、まだ声が続いていた。
「私が誰かって?私は彼の母親よ。入る資格がないっていうの?」川村染の声が続けて聞こえてきた。
水野日幸は吐き気を催しそうになり、源那津を見て言った。「兄さん、喪服を着て会いに行くべきですよ」
母親?
彼女の口からその呼び方を聞くと、本来世界で最も美しく温かいはずのその呼び方を侮辱しているように感じた。厚かましい限りだ。