第579話 違約金は1000倍の賠償

源那津には誰の声かわからなかった。

水野日幸はすでに答えていた。「川村染だ」

まさかここまで来るとは。彼女はどの面下げてそんなことが言えるのか。源家を破滅に追い込んでおいて、天罰が下るのを恐れないのか。

源那津が振り向くと、彼女のいつもの無関心そうな瞳が、今は万里の氷のように凍りついていた。明らかに殺気を帯びており、外から聞こえてくる声に、顔を曇らせて言った。「出て行って確認してくる」

水野日幸は冷笑した。「相手にする必要なんてない」

外では、まだ声が続いていた。

「私が誰かって?私は彼の母親よ。入る資格がないっていうの?」川村染の声が続けて聞こえてきた。

水野日幸は吐き気を催しそうになり、源那津を見て言った。「兄さん、喪服を着て会いに行くべきですよ」

母親?

彼女の口からその呼び方を聞くと、本来世界で最も美しく温かいはずのその呼び方を侮辱しているように感じた。厚かましい限りだ。

「出ないで」源那津は彼女に一言言い残すと、すでにドアを開けて出て行った。

川村染は源那津を見ると、年長者としての威厳を見せつけ、冷笑しながら彼を見た。「源社長、やっと私に会ってくれるのね」

彼女は知っていた。彼は恩を仇で返す白眼狼だと。彼女は夫に言っていた、草を刈るなら根まで刈れと。しかし夫は父子の情を思い、女々しい慈悲心から、この狼の子を生かしておいた。

彼女はあらゆる手を尽くして彼を国外に追いやり、海外で養い、彼の周りに人を配置した。彼も彼女の思い通りに、日に日に無能な人間になり、平凡で、放蕩息子となった。

しかし誰が想像しただろうか。あのような遊び人で、花街をうろつくだけの放蕩息子が、帰国後にコスモスエンタテインメントを設立し、曽我家と対立することになるとは。

彼は自分だけの力で曽我家を潰せると思っているのか?そんなことはさせない!

曽我若菜も傍にいて、源那津を見ると、恥ずかしそうに微笑んで兄さんと呼び、川村染の袖を引っ張った。

コスモスエンタテインメントは今や日の出の勢いで、設立からまだ1年も経っていないのに、すでに芸能界で重要な地位を占めており、曽我家傘下の天星エンターテインメントでさえ、無視できない存在となっていた。