車内は、しばらくの静寂の後、また賑やかになってきた。入学初日で、自衛隊での訓練に向かう道中、みんなは自衛隊基地がどんな様子なのか、テレビで見たものと同じなのかと話し合っていた。
水野日幸はイヤホンをつけて音楽を聴きながら、目を閉じて休んでいた。
二時間後、車は目的地に到着して停車した。
水野日幸が江川薫と大方笑子たちと一緒に車を降りたところ、立山蘭が彼女に向かって走ってくるのが見えた。目を真っ赤にして、泣いているようだった。
立山蘭の動きは素早く、あっという間に傍らまで来ると、慌てた様子で水野日幸の腕を掴もうとし、泣き声で言った。「日幸、助けて!」
水野日幸は眉間にしわを寄せ、嫌悪感を隠さずに冷たい目で彼女を一瞥し、避けながら歩き出した。まるで彼女が見えないかのように。
悪意を持った奴め、殺さないだけでも随分優しくしているのに、ハエのように付きまとってきて、目障りだ。
「日幸、見殺しにするつもり?お兄さんの電話番号だけでも教えてよ。お兄さんに会いに行くから」立山蘭は怒りを込めて叫び、彼女の前に立ちはだかった。
両親の携帯は通じず、電源が切れているとのこと。ホテルでは二人とも既にチェックアウトしたと言われたが、夜の10時のフライトのはずで、連絡が取れないはずがない。
彼女が思いつく唯一の可能性は、両親に何かあったのではないかということだった。乗車してからずっと焦りながら電話をかけ続け、さっきは警察にも通報したが、失踪から24時間経たないと受理できないと言われた。
「お兄さんには既に彼女がいるわ」水野日幸は立山蘭を冷たく一瞥し、突然彼女に近づいて声を潜めた。「警告しておくけど、もし彼に近づこうとしたら、八つ裂きにして海に投げ込んで魚の餌にするわよ」
誰が聞いても冗談に聞こえるはずの言葉なのに、立山蘭はその時、背筋が凍るような恐怖を感じた。真っ赤な目で彼女を見つめながら言った。「水野日幸、私のお母さんとあなたのお母さんは大学の同級生よ。お母さんに言いつけられても平気なの?」
やはり、彼女を嫌う理由は正しかった。水野日幸という小生意気な奴は、本当に憎たらしい。