第607章 君が作ったものは、俺だけのもの

夏目之沢は慌てて目標を変え、水野日幸の前に這い寄り、パンパンパンと自分の頬を激しく叩いた。「水野お嬢様、申し訳ありません。全て私が悪かったのです。私が軽率な発言をしてしまいました。どうか寛大な心でお許しください。プロジェクトチームから退きます。いいえ、帝京大学から自主退学します」

水野日幸は彼の謝罪の態度が軽率な発言と同じように素早いのを見て、嘲笑的に笑った。「じゃあ、その言葉を忘れないでね」

「ありがとうございます、水野お嬢様」夏目之沢は慌てて土下座して謝罪した。心の中では少しの恨みも抱く勇気がなかった。長谷川家の當主に対して、誰が不敬な心を抱けようか。明日の太陽を見られなくなるのは目に見えている。

葛生は水野日幸を見て、もう一度確認した。

水野日幸は「あの口が生意気すぎるわ。人を見かけるなり汚い言葉を吐きまくる。少し懲らしめが必要ね。平手打ち百回、追い出しなさい」

「はい、お嬢様」葛生は言い終わると、警備員に指示して夏目之沢を引きずり出した。

水野日幸はようやく長谷川深の車椅子を押して、社長専用のエレベーターに乗った。エレベーターの中で、彼の耳元に寄り添って、蘭のような息を吹きかけた。「お兄様、ありがとう！」

「じゃあ、どうやって感謝してくれるの？」長谷川深は唇の端を少し上げて、彼女に尋ねた。

水野日幸は既に彼の前に来て、真剣に彼を見つめた。「滴水の恩に湧泉をもって報いるべきです」

長谷川深は低く「うん」と応え、笑顔で彼女を見つめていると、少女は直接彼の胸に飛び込んできて、柔らかな手で彼の腰をしっかりと抱きしめた。

そして少女が彼の胸に顔を埋めて、くすくすと笑い声を立てるのが聞こえた。その笑い声は清らかで甘美だった。「湧泉で抱きしめる、もう抱きしめましたよ」

長谷川深は一瞬驚き、彼女の耳に口を寄せて、かすれた声で言った。「滴水の恩には身を以て報いるべきじゃないのかな？」

「甘く見ないでよ」水野日幸は彼の胸から離れて「そんな小さな恩で私を買収できると思ってるの？少なくとも...イチゴ味のソフトクリームをあと2本買ってくれないと」

長谷川深は思わず笑い声を漏らし、大きな手を伸ばして少女を再び胸に引き寄せた。既に水野日幸の突然の抱擁で床に落ちていたお菓子が、さらに多く落ちた。