水野日幸は立ち去り、振り返ることもなかった。
長谷川深は彼女の去っていく後ろ姿を見つめ、瞳の奥の表情が次第に深くなり、両手で車椅子をきつく掴んだ。ついに我慢できず、歯を食いしばって二文字を絞り出した。「日幸!」
水野日幸は突然振り返り、飛ぶように彼の方へ走り寄って、そのまま彼の胸に飛び込んで腰をきつく抱きしめた。少しかすれた声で名残惜しそうに言った。「お兄さん。」
長谷川深は何も言わなかった。
水野日幸は顔を上げ、彼の唇の端に軽くキスをした。「怒らないで、私、お兄さんのこと想ってるから。」
長谷川深の唇の端がようやく小さな楽しそうな弧を描き、軽く咳払いをして、真面目な顔で彼女に注意した。「ポテトチップスが潰れたよ。」
水野日幸は落ち込んだ。せっかく盛り上がった雰囲気なのに、彼は空気を読めないのか。台無しだ。でも本当にポテトチップスに触れてみたら、全然潰れていなかった。