第622章 後路を準備する

川村染が動画を見て、恐怖で失禁したという事件は、誰が広めたのかは分からないが、すぐに撮影現場中に広まってしまった。

古川政史監督も何が起きたのか分からず、自分で何度も動画を見返してみたが、ごく普通の飛び降り自殺の映像で、確かに画面は衝撃的で血なまぐさかったものの、人をそこまで怖がらせるほどのものではなく、テレビから這い出てくる貞子でもあるまいに。

幸い川村染は既に正常な状態に戻り、撮影には支障がないと表明したが、全体的に憔悴し不安な様子だった。

裏では、林千知と他の俳優たちが、この件について密かに議論していた。元々川村染に好感を持っていなかったため、今回の出来事を面白がっていた。

「あの動画を見たわ」林千知は声を潜め、当時の事情について多少知っていた。「彼女が演じる清水羽奈は最後に不倫カップルの前で飛び降り自殺したでしょう？曽我逸希の前妻も飛び降り自殺したって聞いたわ。きっと彼女は後ろめたさを感じたのよ」

「じゃあ、なぜこのドラマを引き受けたの？自分を追い込むようなものじゃない？」誰かが不思議そうに尋ねた。

「出雲七先生の新作だもの、絶対にヒット作になるわ。彼女だけじゃなく、オーディションの時は芸能界の半分くらいの人が来てたわよ。工藤沙織だって来たのよ」林千知は笑って続けた。「こんな良い仕事、誰だって欲しいでしょう。私だって毒婦を演じるのよ！」

彼女が演じる斎藤竹子は、表面上は品格があり優雅だが、実際は極めて利己的な人物だった。そう考えると、川村染とよく似ていた。

現代の環境に全く合わない、悲劇的な結末で、暗さと絶望に満ちたこのドラマが、どうやって審査を通過したのか分からなかった。

しかし、このようなテーマのドラマは大衆の好みに逆らうものだ。出雲七先生だからこそ、このようなドラマを撮る勇気があり、視聴率のために観客の好みに迎合することはしないのだ。

「そうね」他の誰かが応じ、また元の話題に戻った。「曽我逸希の前妻は本当に飛び降り自殺したの？」

林千知は頷き、自分が聞いた話を、真偽は定かではないが全て話した。どうせ彼女は前から川村染が気に入らなかったし、この機会に彼女のイメージを壊せるなら、これ以上のことはない。