第654章 突然撮影現場に現れたイケメン

撮影現場の雰囲気も、古川政史の緊張感に伴って緊迫してきた。カメラマン、照明技師、小道具スタッフたちもそれぞれ忙しく動き出し、準備作業を万全に整えていた。

曽我若菜も来ていた。この場面は彼女と主演男優の対面シーンで、プライベートでも何度も練習を重ねており、一発で成功する自信があった。

古川政史は曽我若菜を見て、彼女を呼び寄せ、手元の注釈付きの台本を見せながら言った。「若菜、君のこの数シーンは全て撮り直しが必要だ。特にこのシーン、兄に平手打ちされるところだが、出雲七脚本家が演技が不自然すぎると言っている。一目で演技だとわかるそうだ。本当に打つことは可能かな？無理なら他の方法も考えられるが。」

曽我若菜は表情を変えなかったが、心の中では怒りが爆発しそうだった。笑顔も作れず、不安そうに尋ねた。「本当に打つんですか？」

あの忌々しい出雲七、また彼女に嫌がらせをしてきた。なぜ死んでくれないのか？いや、今は死んではいけない。死ぬなら、この脚本を書き終えてからにしてもらいたい。

古川政史は頷いた。「本当に打つのが一番効果的だ。安心して、暁日には優しく打つように言っておく。」

兄役の永井暁日も近づいてきて、曽我若菜に笑いかけた。「若菜、心配しないで。僕は女性に優しいから、本気では打たないよ。」

曽我若菜は「うん」と答え、決心したように頷いた。「わかりました、同意します。」

口ではそう言いながら、心の中では出雲七への憎しみが募っていた。できることなら、直接会いに行って八つ裂きにして、自分の前で土下座させてやりたかった。

安心しておけばいい。撮影中に受けた屈辱は、千倍万倍にして返してやる。

「じゃあ、まず暁日との這いシーンから補充撮影しよう。」古川政史はそう決定し、各部署に準備を指示した。

すぐに撮影が始まった。

脚本室で、水野日幸は隣に座ってゲームをしている藤田清明を見て、眉をひそめ、少し嫌そうに言った。「なぜ漢方医を探さないで、私についてくるの？」

藤田清明は当然のように、顔も上げずにゲームを続けながら答えた。「先生は不在で、明日まで帰って来ないんです。一人じゃ退屈だから。」

水野日幸は彼を睨みつけ、本当のことを言っているのかどうかわからなかったが、視線を変え、撮影現場のモニターを見た。