長谷川深は彼女の睡眠を邪魔したくなかったので、ドアをノックせずにカードキーで入室したが、それでも彼女を起こしてしまった。部屋に入ると、少女がチーターのように警戒心に満ちた危険な眼差しを向けていたが、すぐに彼だと気づくと、少女の全身の緊張が解けた。
彼が近づいてベッドの上の少女を見つめ、何か言おうとした瞬間、少女に突然引っ張られ、次の瞬間には彼女が彼をきつく抱きしめ、小さな頭を彼の胸に埋めた。
彼は心痛めながら腰を下ろし、大きな手で優しく彼女の髪を撫で、顎を彼女の頭に乗せ、深いため息をつきながら言った。「眠れないの?」
水野日幸は頷き、彼の胸の中で身を寄せ、彼の体が冷たいのを感じ、布団を引っ張りながら顔を上げて彼を見つめた。「ベッドで寝よう」
長谷川深は身を屈め、彼女の額に顔を寄せた。「体が汚れてる、シャワーを浴びてないから」
彼は今日の彼女の混乱を予想し、ビデオ通話を切った後すぐに飛行機で彼女のもとへ向かい、長旅で体が臭くなっていた。
水野日幸は首を振り、少し沈んだ声で、むっつりと言った。「汚くないよ」
自分の言葉を証明するかのように、彼女は彼の首筋に顔を寄せ、顎にキスをした。少しざらついたひげが痒くて、彼女は小さく笑い出した。
長谷川深は彼女を見つめて尋ねた。「どうしたの?」
水野日幸は再び彼の顎を撫でながら言った。「お兄さん、髭が生えてきたね」
長谷川深は笑みを漏らした。「元々髭はあるんだよ」
朝に剃った髭も、深夜になれば当然伸びてきている。彼女が嫌がらないか心配だった。
「くすぐったい」水野日幸の声は柔らかく、眠気まじりの掠れ声で、疲れた様子でありながら何とも言えない魅力を帯びていた。そう言いながら、また好奇心旺盛な赤ちゃんのように顔を寄せた。
「くすぐったいなら動かないで」長谷川深は彼女の額に自分の額を押し付け、低い声で言った。「シャワーを浴びてから戻ってくるよ、いい?」
「うん」水野日幸は頷き、素直に手を放した。男性が立ち上がって出て行くのを見送りながら、布団を抱えてソファまでついて行き、洗面所の方向を見つめていた。