第33章 正式に撮影現場入り(5)

鈴木和香も思わず興味を引かれた。

脚本では、女二号と男二号は対立する役どころだが、今まで彼女は自分の相手役が誰なのかまったく知らなかった……

プロデューサーは皆が非常に興味を持っている様子を見て、神秘的な表情で答えを明かそうとした矢先、個室のドアが再び開かれた。プロデューサーは反射的に振り向いて一瞥したところ、言葉が喉に詰まり、すぐさま立ち上がった。

プロデューサーの行動に続いて、テーブルを囲む全員が入口の方を振り向いた。

我孫子プロデューサーは熱心に笑顔で挨拶した。「来栖社長、ようやくいらっしゃいましたね。どうぞお座りください。」

鈴木和香も他の人と同様に入口の方を向いたが、振り向きかけたところで我孫子プロデューサーの口から「来栖社長」という言葉を聞き、心臓が大きく跳ねた。「来栖社長」が誰なのか理解する間もなく、来栖季雄が落ち着いた足取りで入ってくるのが見えた。

鈴木和香は周りで誰かが息を呑む音と、小さな囁き声を聞いた。「男二号が来栖スターだなんて?」

「すごい、だからこそ今まで情報が漏れなかったんだわ。これは間違いなく大ニュースよ。きっとWeiboで大騒ぎになるわね。」

来栖季雄は俳優出身ではあるが、その立場は大きく異なっていた。環映メディアのCEOである。

在席している芸能人の90パーセントは環映メディアの所属タレントで、『傾城の恋』この作品の最大の出資者が来栖季雄だった。

皆は、なるほどプロデューサーと監督が大人しく待っていたわけだと納得しながら、プロデューサーに続いて一斉に立ち上がった。

鈴木和香はこのニュースを一時的に消化できず、全員が立ち上がった時も呆然と座ったままだった。馬場萌子が手を伸ばして彼女をぐいと引っ張るまで、ようやくはっとして立ち上がった。

来栖季雄の表情は相変わらず冷淡で、皆の起立に対して何の反応も示さず、淡々と歩を進め、唯一空いている席まで来ると椅子を引いて座った。

来栖季雄と付き合いのある人々は、彼のこの寡黙な性格に慣れていたので、プロデューサーは彼が座るのを見てから着席し、その後他の人々も次々と座った。

プロデューサーは給仕にメニューを持ってこさせ、自ら来栖季雄に手渡した。「来栖社長、何をお召し上がりになりますか?」

来栖季雄はメニューを一瞥もせずに、そっけなく二文字だけ言った。「適当に。」