第34章 正式に撮影現場入り(6)

ただ松本雫だけがメニューを受け取ると、落ち着いた様子でメニューを開き、自分の好きな料理を選んで二品注文した。

メニューが鈴木和香の前に回ってきたとき、彼女はようやく来栖季雄が男性二番手だという事実から我に返った。彼女は自分の横に立っているウェイターに微笑みながら手を振って、注文する必要がないことを示し、メニューをウェイターに返した。

ウェイターがメニューを抱えて微笑みながら去ると、鈴木和香はようやく顔を上げ、自分の正面に座っている来栖季雄を一瞥した。

個室は暖色系の照明が灯され、黄色みがかった光が彼の顔に当たり、彼をどこか遠い存在のように見せていた。彼の隣には大物監督が座っており、監督が何かを話しかけていると、彼は少し顔を傾け、無表情で聞いていた。

彼は鈴木和香の視線に気づいたようで、突然少し顔を向け、まっすぐに彼女に視線を向けてきた。鈴木和香は驚いて即座に顔をそらし、馬場萌子と話をしているふりをした。