第34章 正式に撮影現場入り(6)

ただ松本雫だけがメニューを受け取ると、落ち着いた様子でメニューを開き、自分の好きな料理を選んで二品注文した。

メニューが鈴木和香の前に回ってきたとき、彼女はようやく来栖季雄が男性二番手だという事実から我に返った。彼女は自分の横に立っているウェイターに微笑みながら手を振って、注文する必要がないことを示し、メニューをウェイターに返した。

ウェイターがメニューを抱えて微笑みながら去ると、鈴木和香はようやく顔を上げ、自分の正面に座っている来栖季雄を一瞥した。

個室は暖色系の照明が灯され、黄色みがかった光が彼の顔に当たり、彼をどこか遠い存在のように見せていた。彼の隣には大物監督が座っており、監督が何かを話しかけていると、彼は少し顔を傾け、無表情で聞いていた。

彼は鈴木和香の視線に気づいたようで、突然少し顔を向け、まっすぐに彼女に視線を向けてきた。鈴木和香は驚いて即座に顔をそらし、馬場萌子と話をしているふりをした。

来栖季雄を一目見ただけで、見つめているところを見られそうになり、鈴木和香はウェイターが料理を運び終えるまで、来栖季雄の方を一度も見ることができなかった。

このような宴会では、お酒は欠かせない。

我孫子プロデューサーは、おそらく来栖季雄がいることもあって、気前よくロイヤルサルート2本を開け、ウェイターが全員のグラスを満たすと、全員で続けて3杯を飲み干し、すると宴会の雰囲気は一気に盛り上がり、みんな話題に花を咲かせ始めた。

来栖季雄はずっと静かだった。他の人が乾杯を求めてくると、言葉こそ発さないものの、グラスを上げて飲み、挨拶されれば頷くのだが、彼の眉間の冷たさは、どう見ても彼が別世界の人のように感じさせた。

このような宴会で、皆が人脈作りに忙しい中、来栖季雄の存在のせいで、鈴木和香はずっと緊張していた。他の俳優たちのように、プロデューサーや監督に頻繁に酒を勧めて話しかけることもせず、ただ他人から話しかけられたときだけ、穏やかな笑顔で返事をするだけだった。

鈴木和香の緊張ぶりに比べ、松本雫はこの宴会にさらに場違いな様子を見せていた。彼女は本当に食事会に来たかのように、端正な態度で自分の席に座り、優雅に箸を使って料理を取り分け、時折横の白湯を一口飲むだけだった。