第35章 正式に撮影現場入り（7）

プロデューサーの紹介は突然で、鈴木和香は心の準備もできていなかったが、それでも落ち着いた態度で立ち上がり、テーブルの人々に軽く頭を下げ、澄んだ声で言った。「皆様、こんにちは。鈴木和香と申します。皆様と一緒に仕事ができることを嬉しく思います。ありがとうございます。」

鈴木和香の言葉が終わると、我孫子プロデューサーが率先して拍手を始めた。

黙々と食事に集中していた松本雫は、鈴木和香の自己紹介が終わった後、顔を上げて彼女の方を見た。その目には驚きの色と、何かを見定めようとする様子が混ざっていた。

拍手が止むと、我孫子プロデューサーは来栖季雄に近づこうとして、彼の方を向いて言った。「来栖社長、劇中では和香さんがあなたのパートナーになります。」

来栖季雄はその言葉を聞くと、まぶたを上げ、鈴木和香の方をちらりと見た。

鈴木和香は緊張で手に汗をかいていたが、それでも必死に冷静さを保とうとしていた。

テーブルを囲む人々は誰も、鈴木和香と来栖季雄の関係を知らず、ただの他人同士だと思っていた。そのため、我孫子プロデューサーは再び和香の方を向いて言った。「和香さん、何をぼんやりしているの？早く来栖社長に挨拶して、親しくなりなさい。これから対面シーンを撮影するんだから。」

プロデューサーがここまで言うと、鈴木和香は緊張していても、意を決して目の前のグラスを手に取り、立ち上がって来栖季雄に向かって丁寧に言った。「来栖社長、お目にかかれて光栄です。これからの共演、よろしくお願いいたします。」

来栖季雄は淡々と席に座ったまま、まぶたを下げ、自分の前のグラスを見つめ、反応を示さなかった。

鈴木和香はグラスを握る力が思わず強くなった。彼が自分のことを好きではないことは分かっていた。だから彼女は気を利かせて、人前では知らない振りをしていた。今は仕方なく話しかけたのに、こんな時でさえ、彼は少しも相手にしてくれないのだろうか。

しばらくして、来栖季雄は軽くまばたきをし、鈴木和香を見ることもなく、片手でグラスを取り、一気に飲み干した。

鈴木和香はようやくほっと胸をなで下ろし、急いでグラスを上げ、その杯を飲み干して、自分の席に戻った。

しかし鈴木和香が落ち着く間もなく、突然、澄んだ女性の声が響いた。「和香さんは新人なのに、来栖社長と共演できるなんて、本当に運がいいわね。」