第36章 正式に撮影現場入り（8）

食卓の雰囲気が少し凝固し、皆の視線が何となく鈴木和香に向けられた。

鈴木和香は皆が何を考えているのか分かっていた。彼女のこの役は、体を売って手に入れたものだから、自信が持てず、一瞬どう反応すればいいのか分からなくなり、表情が固まってしまった。

その固まった様子は、まるで真相を暴かれて、どうしていいか分からなくなったかのようだった。

食卓の雰囲気は、さらに重くなった。

鈴木和香は気まずさと焦りを感じ、自分の最も醜く汚い部分が、このように無理やり暴露されてしまったように感じた。

鈴木和香のマネージャーである馬場萌子も、内心焦っており、この気まずい状況をどう挽回すべきか必死に考えていた。

雰囲気が最も凍りついた時、鈴木和香の向かいに座っていた来栖季雄が突然まぶたを上げ、鈴木和香を見つめた。彼女は目を伏せ、落ち着いているふりをして座っていたが、軽く結んだ唇が不安を漏らしていた。

来栖季雄は鈴木和香を約5秒ほど見つめた後、さりげなく視線を外し、周りの空気を凍らせるような冷淡な声で話し始めた。「林お嬢さん、芸能界にはこんな言葉があるのをご存じないのですか？運も実力のうちだと。」

来栖季雄の一言は、さらりと言ったように見えたが、食卓の全員に、鈴木和香がこの役を手に入れたのは運が良かったように見えるが、実際には彼女の実力が十分で、女二号の役を担うに相応しく、不正な要素は一切ないということを伝えていた。もちろん、そのような意味の裏には、林夏音がこの役を鈴木和香に奪われたのは、彼女の実力が足りなかったからだという意味も含まれていた！

鈴木和香は来栖季雄が突然自分を助け舟を出してくれた理由は分からなかったが、心の中は興奮と喜びで一杯だった。しかし、今の自分がすべきことは何かを理解していたので、すぐに唇を緩め、謙虚な口調で言った。「先輩方や先生方から学ばせていただくことがたくさんあります。撮影の時に皆様の足を引っ張らないよう頑張ります。」

来栖季雄の言葉は権威があり重みがあった上に、今の鈴木和香の言葉は、その場にいる全員を持ち上げながら、自分の謙虚さと礼儀正しさを示したため、その場にいた全員が一瞬にして彼女への見方を変え、皆が鈴木和香を褒め始め、そして新しい話題に移っていった。

傍らに座っていた林夏音は、まだ笑顔を保っていたものの、表情は少し険しくなっていた。