第37章 自分に面倒を招くのが怖い(1)

食事会が終わり、鈴木和香はトイレに行った。トイレから出てきた時には、個室の人たちは皆帰ってしまっていた。

来た時は近くに駐車スペースがなかったため、車は200メートル先の交差点に停めてあった。馬場萌子は和香がトイレに行っている間に、車を取りに行った。

和香がレストランの入り口に着いた時、馬場萌子はまだ戻ってきていなかった。彼女が道端で待っていると、来栖季雄がレストランから出てくるのが見えた。

和香はレストランの正面に立っており、季雄がまっすぐ出てくれば、必ず顔を合わせることになる。

季雄は公共の場で彼女と関わりを持つことを好まず、たとえ避けられない状況で出くわしても、彼女を空気のように扱い、無視するのだった。

彼が近づいてきて無視するのを待つくらいなら、自分から賢明に避けた方がいい。

和香は季雄が自分に気付く前に、素早く身を翻して前方に歩き出した。しかし、少し歩いたところで、突然車が彼女の横に停まり、窓が下がって中から彼女の名前が呼ばれた。「和香さん」

和香が横を向くと、助手席に座っている我孫子プロデューサーが見え、すぐに礼儀正しく微笑んで「我孫子さん」と声をかけた。

我孫子プロデューサーは窓から顔を出して「和香さん、どうしてここを一人で歩いているの?車はないの?」

そう言いながら、我孫子プロデューサーは自ら車のドアを開けて降り、和香のために後部座席のドアを開けた。「お住まいはどちらですか?送りましょう」

和香は急いで首を振り、お礼を言った。「我孫子さん、ご親切にありがとうございます。マネージャーが車を取りに行っているので、ここで待っているんです」

「そうですか...」我孫子プロデューサーの目に残念そうな色が浮かび、和香を見つめ続けた。見れば見るほど和香の美しさに魅了され、思わずさらに質問を続けた。「和香さんはどこの大学のご出身ですか?」

和香は季雄を避けたいと思っていたが、我孫子プロデューサーを怒らせるわけにもいかず、丁寧に質問に答えた。「X大です」

「X大か、いい学校ですね...」

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季雄は和香が自分に気付く前に、すでに彼女を見ていた。

彼女は彼を一目見ただけで、素早く身を翻して横に歩き出した。明らかに彼を避けようとしていた。