第38章 自分に面倒を招くのが怖い(2)

鈴木和香と我孫子プロデューサーは些細なことについて話していたが、話が進むにつれて、我孫子プロデューサーは突然和香の電話番号を尋ねてきた。今後の協力のために連絡先を交換しておきたいとのことだった。

和香は特に違和感を感じることなく、自分の電話番号を教えた。

二人はお互いの電話番号を保存し終えると、我孫子プロデューサーは携帯をしまい、「和香さん、この後用事があるので、先に失礼します」と言った。

和香は急いで我孫子プロデューサーのために車のドアを開け、彼が乗り込んだ後にドアを閉めた。車の中の我孫子プロデューサーに手を振りながら、笑顔で「我孫子さん、さようなら」と言った。

我孫子プロデューサーも和香に手を振り返すと、車は発進した。

和香は車が少し離れていくのを見届けてから、やっと表情を緩めた。そして馬場萌子がまだ来ていないことに気づき、携帯で萌子に電話をかけながら、あたりを見回して萌子が来ているかどうかを確認しようとした。

和香が発信ボタンを押す前に、自分に向かって歩いてくる来栖季雄の姿が目に入った。彼女の動きは思わず固まり、反射的に目を伏せた。

和香はいつものように季雄が自分を無視して通り過ぎるだろうと思っていたが、彼は自分の前まで来ると足を止めた。

和香の心臓の鼓動が一瞬止まりそうになった。彼女は少し緊張しながら顔を上げ、季雄を見上げた。

季雄の表情はいつもの通り冷たく、彼の視線は和香の手にある携帯電話を真っ直ぐに見つめていた。温もりも感情も感じられない眼差しだった。

和香は季雄の氷山のような態度にもう慣れていたが、彼が自分の携帯をそんなにじっと見つめる理由が分からなかった。

和香は季雄の視線に指先まで凍りつきそうになり、少し不自然に指を動かした。携帯を握る力が少し強くなり、彼がまだ何も言わず立ち去る様子もないのを見て、気まずさを紛らわすように話題を切り出した。「あの、今晩の食事の時は、ありがとうございました」

正直なところ、季雄が彼女を助けるために口を開いてくれたことに、和香は本当に驚きと喜びを感じていた。あの瞬間、心の中で花が咲いたかのように嬉しくて仕方がなかった。一時間以上経った今でも、思い出すだけで心の中に喜びが溢れてくるのを抑えられなかった。