第39章 自分に面倒を招くのが怖い(3)

来栖季雄の脳裏に、先ほどの彼女が我孫子プロデューサーに向かって見せた愛らしい笑顔が一瞬よぎり、彼の表情は一層冷たくなった。開いた口から漏れる声には、まったく温もりがなかった。「考えすぎだ」

鈴木和香は驚いて顔を上げた。考えすぎ?

来栖季雄の美しい薔薇色の唇が冷たく歪み、氷のような声が再び響いた。「お前を助けているわけじゃない。自分に面倒が及ぶのが嫌なだけだ。新人のお前が女二号を演じること自体が噂を呼ぶのに、私と共演となれば尚更だ。お前は枕営業で役を得たと言われても構わないかもしれないが、私はそんな不要な噂に巻き込まれたくない」

彼女を助けていたわけではなく、自分に面倒が及ぶのを避けたかっただけ。自分が勝手に思い込んでいただけだった……和香は瞼を伏せ、目に宿った失望の色を隠した。唇が震えたが、声は出なかった。ただ指が自分の襟元を強く掴んでいた。