第40章 自分に面倒を招くのが怖い(4)

『傾城の恋』の最初の二日間は鈴木和香のシーンがなかったが、彼女は毎日撮影時間通りに現場に来て様子を見ていた。

撮影初日は来栖季雄のシーンもなく、彼は全く姿を見せなかった。二日目の午後に彼のシーンが一つあり、午前十時に彼は撮影現場に到着した。すぐにメイクに向かうことなく、椅子を見つけて座り、撮影中のシーンを見ていた。

おそらく来栖季雄が現れたせいで、今日シーンのない俳優たちも集まってきたが、季雄の冷たいオーラのせいで、話しかけるどころか、彼の周囲三メートル以内には誰も近づかなかった。

昼食時、スタッフ全員が弁当を食べ、来栖季雄も例外ではなかった。アシスタントが持ってきた弁当を、少しも嫌な顔をせずに受け取り、静かに食べ始めた。

彼の食事の仕草は優雅で、全身から気品が漂っていた。食事を終えると、そのままメイクルームに入った。

来栖季雄の午後の撮影シーンは、松本雫との共演だった。

松本雫は午前中にシーンがあったため、すでにメイクを済ませていた。季雄が出てくると、雫のメイクさんがすぐに彼女の化粧直しを始め、その後俳優、照明スタッフ、その他のスタッフがそれぞれの持ち場に着いた。

来栖季雄と松本雫はほぼ同時期にデビューし、数々のヒット作で主演カップルを演じてきた。男は端正で女は美しく、二人は何年も連続で「ベストスクリーンカップル賞」を受賞していた。

二人は何度も共演しているため、お互いの演技のパターンをよく知っていた。今回は恋人役ではなかったものの、脚本が求める感情と雰囲気を見事に表現し、撮影は順調に進み、監督は「いいぞ!」「素晴らしい!」「綺麗だ、続けて!」と連呼していた。

シーンの撮影が半ばに差し掛かった時、監督が中断を告げ、メイクさんに二人の化粧直しを指示した。

アシスタントが季雄にミネラルウォーターを渡すと、彼は開けて二口ほど飲んだだけで手を振って下げさせ、メイク直しが終わるのを待って真っ先に撮影場所に戻り、まだメイク中の雫を待った。

松本雫のメイクが終わると、二人は後半の撮影を続けた。

前半の撮影で二人はすでに役に入り込んでいたため、後半の演技はさらに素晴らしいものとなり、ある瞬間には、まるで現実の光景のように感じられた。