鈴木和香は、これが自分の人生で今まで食べた中で最も辛い食事だと感じていた。
ようやく大物監督、松本雫と田中大翔が食事を終えて席を立つと、鈴木和香も急いで箸を置き、お腹いっぱいだと告げた。
我孫子プロデューサーと来栖季雄に、この後用事があるので先に失礼させていただきますと言おうとした矢先、我孫子プロデューサーが何かを思い出したように、突然和香に声をかけた。「和香ちゃん、最近は撮影以外に、他の仕事とか予定はある?」
鈴木和香は首を振った。「ありません」
「それはちょうどいい。実は私の友人で、ヨーロッパの某大手化粧品ブランドのアジア販売責任者がいるんだけど、今年で契約が切れる広告モデルの後任を探しているんだ。ちょうど私に推薦を頼まれていてね。和香ちゃんは雰囲気も容姿も素晴らしいから、推薦しようと思っているんだ」