来栖季雄の目に一瞬鋭い光が走り、突然立ち上がると、脇に置いていた台本を一瞥した。手を伸ばそうとしたが、動きを止め、冷たい表情のまま背を向けて立ち去った。
我孫子プロデューサーは来栖季雄が去るのを見て、長居を避け、急いで後を追った。
この食事がようやく終わり、鈴木和香は密かにほっと胸をなでおろした。全身の力が抜けたように感じながら、椅子に座ったまま少し気持ちを落ち着かせてから、立ち上がって帰ろうとした。
鈴木和香が二、三歩も歩かないうちに、突然後ろからウェイターの丁寧な声が聞こえた。「お嬢様、申し訳ございません。少々お待ちください。」
鈴木和香が振り返ると、ウェイターが台本を持って近づいてきた。「お嬢様、これはお客様のお忘れ物でしょうか?」
鈴木和香は来た時に台本を持っていなかったので、首を振った。
「では、きっと撮影クルーの方のものだと思います。お手数ですが、お渡しいただけますでしょうか。」
鈴木和香はそれを受け取った。
「ありがとうございます。」ウェイターは鈴木和香に微笑みながらお礼を言って去っていった。
食事の時、テーブルには彼女と来栖季雄、松本雫、田中大翔の四人の俳優しかいなかった。台本は自分のものではないので、来栖季雄か松本雫、田中大翔の三人のうちの誰かのものに違いない。
鈴木和香はそう考えながら、手に持った台本をパラパラとめくり、誰のものか手がかりを探そうとした。しかし最初のページを開いただけで、見覚えのある三文字を見つけた。
その三文字は力強く、威厳に満ちていた。
来栖季雄。
なんと来栖季雄の台本がここに置き忘れられていたのだ。
鈴木和香の心臓の鼓動が、突然早くなった。
ホテルの部屋に戻った鈴木和香は机に伏せて、その台本を見つめながら、明日の撮影の時に来栖季雄に返すべきか、それとも今すぐ持っていくべきか考えていた。
鈴木和香は前者の方法を選びたかったが、明日は一日中来栖季雄のシーンだ。もし夜にセリフを覚える必要があったら?
実際、鈴木和香はホテルのスタッフや馬場萌子に台本を渡して、来栖季雄に届けてもらうこともできた。そうすれば、こんなに悩む必要もなかったのだが、どこか気が進まなかった。
鈴木和香はしばらく考えた末、携帯を手に取り、来栖季雄に電話をかけた。