第44章 自分に面倒を招くのが怖い(8)

鈴木和香は電話の「ツーツーツー」という音を聞きながら、しばらくしてやっと来栖季雄が残した「1001」が彼の部屋番号だと気づいた。

彼が部屋番号を教えたのは何のため?今すぐ台本を持ってくるようにという意味だろうか?

鈴木和香はあれこれ考えた末、それしかないだろうと思い、馬場萌子に適当な言い訳をして、台本を持って部屋を出た。

1001号室はホテルの最上階にある大統領スイートだった。

鈴木和香はエレベーターの中で、上がっていく赤い数字を見つめながら、心臓が徐々に早くなるのを感じた。

ついに最上階に到着し、エレベーターのドアが開くと、鈴木和香は深く息を吸い、台本を抱えて出た。

ホテルの廊下の矢印に従って、1001号室がある方向へ向かった。

途中、最上階のスタッフ休憩室を通りかかった。ドアが開いていて、中では二人の女性従業員が小声で話していた。

「さっき1003号室にコーヒーを届けに行った時、本当に怖かったわ。来栖スターったら、どうしてあんなに怒っていたのかしら。今回の撮影について、あらゆる面で文句を付けていたわ。」

「文句を付けられた相手は、この作品のプロデューサーだったみたいね。」

「そう、プロデューサーよ。プロデューサーがお湯を入れて渡した時、彼が手を払いのけて、プロデューサーの手を火傷させちゃったの。さっき山荘の医者が来て、薬を塗ったけど、かなり重症だって。」

「重症にならないわけないわよね。沸騰したばかりのお湯なんだから。とにかく今夜1001号室からサービスの要請があっても、私は行きたくないわ。あなた行ってよ、度胸があるでしょ。」

……

鈴木和香は二人の女性従業員の会話を聞いて、すでに緊張していた心がさらに不安になった。

彼女はもたもたしながら1001号室のドアの前まで来ると、固く閉じられたドアを見つめ、何度も深呼吸をしてから、やっと手を伸ばして壁のドアベルを押した。

押した後で、鈴木和香は部屋のドアベルが「応対お断り」の状態になっていることに気づき、仕方なく手を上げてドアをノックした。

ドアは鍵がかかっていなかったらしく、ノックした拍子に勝手に開いてしまった。

鈴木和香は首を伸ばして中を覗き込み、リビングに誰もいないことを確認すると、もう一度ノックした。すると、カジュアルな服装に着替えた来栖季雄が寝室のドアを開けた。