鈴木和香は少し躊躇してから部屋に入った。台本を来栖季雄の前まで持っていくことはせず、リビングのテーブルに置いた。「台本はここに置いておきます」
鈴木和香は言い終わると、顔を上げて来栖季雄を見た。男は依然として元の姿勢のまま、寝室のドアに寄りかかって立っており、相変わらず話す気がない様子だった。
鈴木和香は今は物を届けたのだから、空気を読んで帰るべきだと分かっていた。その場に少し立ち止まってから、小声で「失礼します」と言った。
そして、振り返って出口へ向かった。
部屋の中は静まり返っていて、鈴木和香の軽い足音以外には何の音もなかった。しかし、鈴木和香がホテルの玄関に近づいた時、突然後ろから急ぎ足の音が聞こえてきた。
鈴木和香は来栖季雄が何かを取りに行くのだと思い、深く考えずに足を少し止めただけで、前に進み続けた。しかし、数歩も進まないうちに、突然横から手が伸びてきて、開いていた部屋のドアが勢いよく閉められ、「バン」という音が響いた。
鈴木和香は来栖季雄の突然の行動に驚いて体が小刻みに震えた。顔を上げて来栖季雄を見ようとした瞬間、男は彼女の手首を掴み、無理やり引っ張って寝室へ向かった。
彼が手首を掴む力が強く、じわじわと痛みが走り、鈴木和香は本能的に危険を感じ取り、体が反射的にもがき始めた。
来栖季雄は彼女のもがきに合わせて手首を掴む力を徐々に強めていった。鈴木和香は振り払えず、よろよろと引きずられるように寝室の洗面所の前まで連れて行かれた。
来栖季雄は手を伸ばしてドアを開け、勢いよく鈴木和香を洗面所の中に押し込んだ。
鈴木和香が体勢を立て直す前に、すぐ後に続いて入ってきた来栖季雄に一気に持ち上げられ、浴槽に放り込まれた。そして男は壁に掛かっているシャワーヘッドを取り、最大の水量に設定し、容赦なく鈴木和香に浴びせかけた。
シャワーから出る水は異常なほど冷たく、水圧も強いため、体に当たると痛かった。鈴木和香は浴槽から飛び出そうともがいたが、来栖季雄は彼女の手首を掴んで浴槽の隅に押しやり、容赦なく水を浴びせ続けた。
最後に、来栖季雄の視線は鈴木和香の、我孫子プロデューサーに触られた肩に落ち、シャワーを直接その肩に向けた。